6.眩しいときは、

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 巨大観覧車では、ゆっくりと景観を楽しむつもりだった。  しかし、箱の中の15分間で敬梧が見ていたのは、遠くの景色に見惚れる慧の横顔だった。  それからフードコートでタコスやチュロスを食べ、色とりどりの雑貨を扱うショップで買い物をした。終始笑顔をみせる慧の周りは、まるで、小さな光のつぶが舞っているかのようだ。  時間はあっという間に過ぎ、楽しい気持ちをかかえて帰路についた。道路は少し混んでいたが、ふたりの住むアパートへ戻ったのは、日が落ちてすぐの時刻だった。    そしていま、駐車場にとめた車から、敬梧も慧もなかなか降りることができないでいる。隣り合わせで住み、会おうと思えば、毎日でも会えるというのに。    やがて、意を決したように敬梧が顔をあげた。 「慧さん、うまく言えないけど。俺、慧さんが好きです」  カラカラに乾いた喉に声が絡まるが、なんとか言いきった。 「だからって、どうなりたいとか、思ってません。俺こんなだし」 「敬梧はかっこいいよ」  慧がいつかと同じように、まっすぐに敬梧を見ている。その瞳のなかに、昼間とは違うきらめきをみつけて、思わず顔を近づけた。 「ごめんっ!!」  胸を強く押し返された敬梧は、とっさのことに硬直してしまう。  慧がドアを開けて飛び出していった。
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