7.解けないときは、

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「何してる!」  信じられない光景に、声を張り上げた。階段の上がり口で、慧が知らない男に両腕を掴まれている。   「みーんな俺を馬鹿にするんだー。なぁ優しくしてくれよー」 「慧さんから離れろ!!」  敬梧は階段を飛ぶように駆け降り、男の身体に手をかけた。ひどく酔っているようだ。顔を背けたくなるような臭いを全身から発している。男の腕を振り払おうとする慧の顔が、恐怖で引きつっていた。  これまでは暴力的な行為など、することもされたこともない敬梧だが、慧の表情に我を忘れそうになる。  男の腕を力ずくで引き剥がし、その身体を押し戻すと、もはや踏ん張ることもできないようで、どんっと尻餅をついた。 「なんだよ……やさしくて好きって……言ったじゃんか……うぅ」  サラリーマンだろうか。ワイシャツとスラックスを身に着けているが、ネクタイはない。ビールの染みがついたシャツも裾が出ていて、どれほど荒んだ酒を飲んだのかと思わせる。もう起きあがることもできないようで、項垂れたまま、ぶつぶつと何か言っている。どうやら泣いてもいるようだ。 「慧さん大丈夫? 怪我してない? 救急車呼ぶ?」  敬梧は、奪い返した宝物を守るように、慧の身体を腕の中に抱いた。そのままの姿勢で「こいつも、通報しなきゃ」とスマホを操作しようとする。 「待って! 大丈夫だから!」  やっと声を出せるようになった慧が、敬梧の手を必死に止めた。  
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