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「ぼくあれキライですあの花! さくら!」
そう、青年はきょうもきょうとてドーナツを食べ散らかす。
「キミ、もう少しきれいに食べれないのかね…あぁまたこぼして…」
「そんなこといって!」
口の周りをチョコレートだらけにして口うるさいオジサン…博士をまんまるの目で睨みつけるけどなんの迫力もない。
「さくらじゃない、アカツガザクラだ」
博士が毎日十回は口にするセリフにも、プウと頬を膨らませている。
「博士! そんなちまちまドーナツ、漢らしくない!」
「キミに男らしさを説かれるとは」
「違いますよ、さくら! あの、大学の正門からアプローチまでずっと、ありますよね!」
コノクニ国立大学高山植生研究室。午後の風景。
つい一ヶ月前に青年が博士の研究室にやってきたその日から欠かされることのない午後三時のアフタヌーンティー。
彼曰くコノクニ一番のドーナツとアールグレイ。
話題はいつも青年の研究する位相幾何学。
植生のラボに助手としてやってきたとゆうのに、彼はいっこうに生き物に感心を示さない。
それが…やっと自らさくらの話題をふるかと思いきや、
「せめて、あまり好きじゃない、程度にしてほしいな」
博士は青年のこぼしたお茶を拭きながら肩をすくめる。
「だってあれ、毛虫! 虫がいますよ!」
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