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 *  コノクニ国立大学には、立派な桜がある。  正門から講堂まで、一キロあまりのメイン通り沿い。建学当時に植えられた樹齢何百年の立派な山桜で、春になると桜色のトンネルをつくり入学生を迎えていた。  青年だってそのさくらに迎えられて八年前、講堂に立ったはずなのに、  「毛虫…」  なんだってその記憶は毛虫の襲撃に塗り替えられているのか。  「…虫も苦手かな?」  やっと博士が落ち着いて席について訊ねると、青年はティースプーンをふりまわして、  「毛虫なんて! 突然落っこちてくるじゃないですか! だいたい生物ってやつはなんでも気まぐれで、あのさくらだって」  「さくらじゃない、アカツガザクラ」  「アカ…なんとかだって! ぼくが水をやったら枯れちゃったじゃないですか!」  て、またこんどはドーナツをぼろぼろとこぼす。
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