第四章

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 彼は常々そう言っていた。 「寒い冬に、寝場所を転々とするような生活をアイリスにさせたくない。  本当は、この小屋にいさせたくないくらいなんだ。  もっと広くて、清潔で、明るさに満ちた部屋に住まわせて、食べ物も着る物も、娯楽だって存分にあるような、そういう生活を僕はきみに送ってほしいと願っているんだよ」 「ルイスがなにを言っているのか、全然わかんない」 「なにより、きみの身と心の安全を。  これは僕のためでもあるのだけれど」  アイリスの腕から外套の袖が引き抜かれた。  ワンピース姿に戻ったアイリスは、泣きそうになってしまう。 「生活とか安全とか、全然わかんない。  だってルイスは今日も城塞に帰っちゃうということでしょ。  五日後にするということは、そういうことでしょ?」 「ごめん、アイリス。  きみは、きみ自身が思っている以上に危険な立場にあるんだ。  だから、そういう状態からアイリスを救い出すためには、状況を見て判断を――」 「そんなの知らない!」  アイリスは怒鳴った。癇癪を起こしていた。 「ルイスの嘘つき、ずっとそばにいるって、言ったじゃない!」
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