第四章

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37 情夜 「ん……、っ」  食べられてしまうのではないかと思うほどに、荒々しく口づけられていた。  混乱と恐怖と、それから、説明のつかない高揚感に襲われて、アイリスの頭の中はぐちゃぐちゃになった。  深く絡みつくようにされ、酸素を求めてアイリスは口を開いた。  すると、口腔内に熱く濡れた舌がねじ込まれてくる。 「や、っ――」  小さな口中をルイスに舐められて、アイリスはびくりと体を震わせた。  固い扉に肩が当たる。  アイリスを味わい尽くそうとでも言うように、ルイスはアイリスの後頭部を大きな手でつかんで、くちびるを重ねてくる。  本能的に逃げようとしたが、背中の扉と、腰に回されたルイスの腕に阻まれた。 「いや、……っルイス……」 「僕はもう、きみしかいらない」  漆黒のローブを脱ぎ去りながら、獰猛な光をたたえた瞳でルイスは告げた。  灰色のシャツと黒のトラウザーズの姿になった彼は、魔術師から一人の男に成り代わったように見えた。 「きみしかいらない。  セーレの使命も、亡き両親の思いも、兄や弟、妹さえ、すべてをここに置いていく。  果てのない嘆きからきみを救うことができたとしても、できなかったとしても、アイリスがこれまで起こしてしまったことは消えない。追っ手はかかり続けるだろう。  そして僕は、きみを絶対に失えない」 「ルイス――、っん」  ふたたび口づけられた。
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