601人が本棚に入れています
本棚に追加
37 情夜
「ん……、っ」
食べられてしまうのではないかと思うほどに、荒々しく口づけられていた。
混乱と恐怖と、それから、説明のつかない高揚感に襲われて、アイリスの頭の中はぐちゃぐちゃになった。
深く絡みつくようにされ、酸素を求めてアイリスは口を開いた。
すると、口腔内に熱く濡れた舌がねじ込まれてくる。
「や、っ――」
小さな口中をルイスに舐められて、アイリスはびくりと体を震わせた。
固い扉に肩が当たる。
アイリスを味わい尽くそうとでも言うように、ルイスはアイリスの後頭部を大きな手でつかんで、くちびるを重ねてくる。
本能的に逃げようとしたが、背中の扉と、腰に回されたルイスの腕に阻まれた。
「いや、……っルイス……」
「僕はもう、きみしかいらない」
漆黒のローブを脱ぎ去りながら、獰猛な光をたたえた瞳でルイスは告げた。
灰色のシャツと黒のトラウザーズの姿になった彼は、魔術師から一人の男に成り代わったように見えた。
「きみしかいらない。
セーレの使命も、亡き両親の思いも、兄や弟、妹さえ、すべてをここに置いていく。
果てのない嘆きからきみを救うことができたとしても、できなかったとしても、アイリスがこれまで起こしてしまったことは消えない。追っ手はかかり続けるだろう。
そして僕は、きみを絶対に失えない」
「ルイス――、っん」
ふたたび口づけられた。
最初のコメントを投稿しよう!