第四章

106/106
前へ
/369ページ
次へ
 ゆっくりと離れて、琥珀色の瞳に見つめられる。 「アイリス、きみを愛しているよ。  僕のすべてはきみのものだ」  ルイスの長い指が、ワンピースの前ボタンに掛かった。  ひとつひとつ外していくあいだにも、アイリスのまぶたや頬、くちびるに、ルイスは口づけていく。  彼の伝えてくる想いが切なくて、アイリスの右目から涙が零れた。  それをくちびるで受け止め、ルイスはささやくように呪文を詠唱する。  現代では意味をなさない古代語が、唄のように優しくアイリスの肌を撫でていくようだった。  いつのまにか、本能的な恐怖が溶け消えていた。  アイリスは無意識のうちに、ルイスにすがるように彼のシャツをつかんでいた。  ルイスの詠唱とともに、ふたりの足元から黄金の籠が編み上げられていく。  花の輪郭をなぞるように美しく、しめやかな光の軌跡だった。  ルイスの結界は、外界を完全に遮断した。  暖炉の薪が爆ぜる音も、室内の匂いも、夜の寒ささえ、ルイスはアイリスから奪った。  腰のリボンがほどかれる。  首すじに口づけられながら、ワンピースが肩から落とされた。
/369ページ

最初のコメントを投稿しよう!

601人が本棚に入れています
本棚に追加