601人が本棚に入れています
本棚に追加
第五章
38 情熱と求婚
ルイスを見なかったか、とカストルがエルサに尋ねてきた。
エルサは、靄のかかったような頭でぼうっと考えてから、ゆっくりと首を振った。
「いえ、ルイス兄様とは三日前に会ったきりです」
「そうか……まだ森の中にいるのかもしれないな。
まったくあいつは、連絡の一つでもよこさないで」
朝食を終えた後の、エルサの部屋だった。
空はよく晴れていたが空気の乾燥した日で、窓の外は北風が吹いていた。
エルサは窓際の椅子に座って編み物をしていた。
園丁たちに、作業中に使えるようなマフラーを編んでいるのだ。
編み棒をもつ手元を見やりながら、カストルは遠慮がちに言う。
「夜は眠れているのか、エルサ」
「はい、大丈夫です」
エルサは兄を見上げてほほ笑んだ。
「カストル兄様がくださったハーブティーが眠りにとてもよく効くの。
ぐっすり眠れているわ。
ありがとうございます、お兄様」
最初のコメントを投稿しよう!