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「教えてくれてありがとう、ジョン。
あなたの説明はいつもとてもわかりやすいわ」
「もったいないお言葉です。
お嬢様がご聡明でいらっしゃるおかげです」
ジョンは、四十年前から庭の手入れを担当してくれている。
エルサは、コートの懐から小さなケースを取り出した。
丸い形をした陶器製で、唐草模様が描かれている。
「あなたのお孫さんがひどい切り傷を脚に負ったと、マイアから聞いたの。
よかったら、朝晩にこれを塗ってあげて。
医術師様に処方していただいた塗り薬よ。
切り傷によく効くようなの」
「い、いえ、お嬢様。
このような高価なものをいただくわけには」
上等な品だとひと目でわかったからか、ジョンは慌てて首を振る。
しかしエルサは、厚手の作業手袋をはめた彼の手に、ケースをそっと握らせた。
「深い切り傷は、くっつきづらいから治りにくいものよ。
ジョンのお孫さんがつらい思いをするのは、わたしもつらいの。
わたしのためだと思って、どうか受け取ってちょうだい」
「お嬢様……」
ジョンは感極まった表情になり、それから深く頭を下げた。
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