第一章

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「教えてくれてありがとう、ジョン。  あなたの説明はいつもとてもわかりやすいわ」 「もったいないお言葉です。  お嬢様がご聡明(そうめい)でいらっしゃるおかげです」  ジョンは、四十年前から庭の手入れを担当してくれている。  エルサは、コートの(ふところ)から小さなケースを取り出した。  丸い形をした陶器製で、唐草模様(からくさもよう)が描かれている。 「あなたのお孫さんがひどい切り傷を(あし)に負ったと、マイアから聞いたの。  よかったら、朝晩にこれを塗ってあげて。  医術師様に処方していただいた塗り薬よ。  切り傷によく効くようなの」 「い、いえ、お嬢様。  このような高価なものをいただくわけには」  上等な品だとひと目でわかったからか、ジョンは慌てて首を振る。  しかしエルサは、厚手の作業手袋をはめた彼の手に、ケースをそっと握らせた。 「深い切り傷は、くっつきづらいから治りにくいものよ。  ジョンのお孫さんがつらい思いをするのは、わたしもつらいの。  わたしのためだと思って、どうか受け取ってちょうだい」 「お嬢様……」  ジョンは感極(かんきわ)まった表情になり、それから深く頭を下げた。
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