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「ありがとうございます、お嬢様。
実は、孫の傷を町医者に診せてもいっかな良くならず、どうしたものかと困り果てていたのです」
「この薬でよくならなかったら、今度は医術師様に直接診てもらいましょう」
「本当にありがとうございます……!」
ジョンは何度も頭を下げた。
「お礼はいいの。
怪我が治ったら、お孫さんをお庭にまた遊びに連れてきてね」
エルサはそう告げて、マイアを伴って遊歩道をふたたび歩き始める。
「今日の朝食のメニューは確か、カストル兄様のお好きなオーツケーキよね。
なら昼食は、ルイス兄様のお好きなフィッシュパイを焼こうかしら」
食事作りも、貴族の令嬢はどうやらしないらしい。
けれどこれもエルサの日常だ。
「ルイス様が大変お喜びになると思いますよ。
けれどそうなると、夕食はもうお一方のお好みに合わせるべきですね。
でないと、テーブルの上のすべてのフォークを、木の枝に変えられてしまいますわ」
エルサはくすくすと笑った。
「そうね。
ロキ兄様にはよくよく注意を払っておかなくちゃ」
「僕なら、そうだな。
チキンのローストさえあれば、晩餐の卓がしっちゃかめっちゃかになることはないと約束するよ」
すぐ右横から声が掛かって、エルサはびっくりした。
寸前まで、そこには誰もいなかったからだ。
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