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第一章
01 落ちこぼれの末娘
第一章
公爵家の末娘であるエルサは、今日も、質素なドレスを選んで身に付ける。
その上から羽織るのは、裾のあたりが擦り切れている外套だ。
身支度を整えたのち、城塞の庭園に出た。
午前七時、朝食前の時間帯である。
空は薄青く、吐く息は白い。
エルサは外套の襟を引き合わせてつぶやいた。
「冬の本番はこれからなのに、もうこんなに寒いのね」
「ですから、毛皮のコートを新しく仕立てましょうと、何度も申し上げておりますのに」
苦笑まじりに答えたのは、侍女のマイア・キュレネーだ。
彼女は二十七歳で、エルサの十歳上である。
エルサはマイアを振り向いて、ほほ笑んだ。
「いいの。
これがまだ充分に着られるし、とても動きやすいもの。
雪がちらつき始めたら、毛皮の手袋を出すわ。
ふわふわのマフラーも巻けば、きっと暖かく過ごせるでしょう?」
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