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 やっと明日から夏休みが始まるということで、受験生を除いた高校生たちは活き活きとしながらアスファルトを踏んでいた。一目で受験生か否かが分かるくらい三年生たちは本格的に始まる受験勉強にどんよりとしているようだった。僕の受験は来年度なのでどんよりするどころか明日から学校に来なくていいことに清々しい気持ちを抱いていた。いや、少し心残りはある。  僕の視線は無意識に花壇の方に移っていた。正確には花壇ではなく、花壇に水やりをしている園芸委員の名も知らないに、だ。長い一日も笑顔で花たちに水やりをする彼女を見れば、疲れもふっとんでしまう。楽しそうに水やりをし、時には植物たちに話しかけている彼女は至極天使のようで、ついつい目が行ってしまうのだ。  僕が通う高校は県内屈指のマンモス校で、同級生がとにかく多い。4、500人はいると思う。だから当然クラス数も多く、卒業まで一度も同じクラスにならずに卒業アルバムで初めて存在を知る同級生もいる。彼女にとって、僕はそんな存在だ。  それでも別にいい。彼女に認知してもらわなくたっていい。彼女が今日も変わらず笑っていて、楽しそうにしていたらそれでいい。その姿を見られれば、それで。「推す」とはこういう感じなのだろう。ひたすらに推しの幸せを願う。推しと関われれば尚嬉しいが、関われなくても見れればそれで十分。
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