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そう言いつつも微笑を浮かべ続ける遠田に加賀美は眉を顰めたが、首を振り「話が逸れたな」と捨て置いた。
「日々起こる事件の中には、一般常識が通用しない、不可思議なものも時折混ざることがあり、そういった事件は密かに我々に回って来る。それだけでなく、神事、行事などの手伝いや、身分のある妖や神々の護衛など、彼らにまつわることなら何でも請け負っている」
「そのせいで上からは、便利屋みたいに扱われて、無理難題を押し付けられてるところもあるんだけどね」
再び遠田が口を挟むが、今度は叱責は飛ばなかった。加賀美が黙っているということは、事実その通りなのだろう。
「そういうことで、相手が相手だ、最低限彼らのことが見えなければ話にならない。勿論、この部隊の人間は程度に差はあれど妖が見える“見鬼の才”を持っている。確認するが、君は妖が見えるのだね?」
「ええ。見えます」
「宜しい。しかし大体察していると思うが、見える人間はそう見つかるものでもない。現在、軍の中で見鬼の才を持つ者は私を含めてこの六名のみ。さらに全員、個々に一般業務を抱えており、それと同時並行でこなさなければならない。ついでに言えば、どの案件も数刻で終わるようなものであれば良いが、時間がかかるものの方が圧倒的に多い。新しい事件の通報が来てもなかなか手を付けられず、はっきり言って人手不足な状況なのだ」
つらつらと並べられる事態の状況は想像以上に重く、由宇は他人事のように大変だな、と薄ら思った。
考えてみれば怪異専門部隊が表向き秘された部署なのであれば、その部に属している人間というのは何とも曖昧な立ち位置にいる存在だ。仕事をしていないただ飯食らいだと疑心の目で見られないためにも、普通の軍人と同じ業務をこなすことは必須なのだろう。
それが逆に自分たちの首を絞める行為になっているわけだが。
初めて知る軍人の多忙さに、むしろ感心出来ると遠い目で話を聞いていると、「だが」と加賀美の声色が変わった。
「そんな時、我々はある噂を聞いた」
「噂、ですか」
「そうだ。『夜な夜な帝都を駆け、潜む闇を祓って回る謎の人物がいる』と、帝都ではまことしやかに流れているらしいな」
「…………」
それはおそらく、いや十中八九自分のことだなと由宇は瞬時に理解したが、何故無駄に格好良く纏められているのだろうかと疑問に思った。噂が流れた先に小説家でもいたのだろうか。
「その姿は誰も見たことが無いが、情報屋を通して依頼すれば立ちどころに解決してくれる、と。怪異が関わっているような気配がしたら、まず初めに情報屋に持って行けという話まで出ているそうではないか」
「そうなのですか」
「うん、街の人たちに聞いてみたら大体そんな感じだったよ」
思わず聞き返した由宇に答えたのは遠田だった。予想外に話が広まっている気がして僅かに目を伏せる。
確かにそういう依頼が入りやすいように仕向けたのは他でもない由宇だが、事が大袈裟に伝わっているように感じてしまうのは何故だろうか。
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