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父から貰った真っ白なイヤホンから曲が流れる。
leapの音楽を聴きながら、私は通学路を歩く。
同じ制服を着た生徒達が前にも、後ろにも沢山。
歩きながらいつものクセでつい、携帯のメッセージを確認してしまう。
leapとサヨナラして半年間、一度もメッセージなんて来ることなかったのに。
メッセージは勿論0件。
毎日こうやって期待して、確認してしまう自分が馬鹿みたいだ。
期待しても疲れるだけなのに。
ため息をつけば、白い息が漏れる。
冷たい風が流れ、マフラーが揺れる。
「智有〜!」
後ろから朱莉の声がした。
振り向くと、茶色い胸まであるポニーテールを揺らしながら私に追いつく。
ドンと真っ赤な手袋の手で背中を叩いた。
私を見上げながら朱莉が明るい笑顔で挨拶する。
「おはよう!」
「おはよ。」
私は朱莉を見下げて微笑んだ。
朱莉は身長が150センチしかない。対する私は身長170センチ。いつも朱莉は私を見上げながら話をする。そのうち首痛めないかなぁ、なんて要らぬ心配をしてしまう。
私はカバンからイヤホンのケースを出し、耳についているイヤホンをしまった。
「何聞いてたの?」
朱莉がニヤニヤしながら聞く。朱莉のぱっつんの前髪が揺れる。
「leapのアルバム。」
「すっかりハマってるねぇ。」
ニヤニヤしたまま朱莉が答える。
入学したての頃はleapに興味のなかった私が、leapにハマっている姿を見るのが古参のファンとしては嬉しいらしい。
「まぁね。」
私はそう言うと朱莉に向かって微笑んだ。
学校に向かう学生達は相変わらず穏やかに流れて行く。
「智有、入学した頃より雰囲気柔らかくなったよね。」
朱莉がそう唐突に呟く。嬉しそうに。
「そう、かな?」
正直自分では分からないけど、ここ最近何人かに言われた。
休学中、色々あったのが原因かもしれない。
冷たい風に飛ばされて落ち葉が踊る。
「うん。なんか、話しかけやすくなった。」
朱莉がニコニコしながら言う。
本当に朱莉がそう言ってくれるのは嬉しいんだけど、とても困ったことがある。
後ろから聞こえるのは、宗介先輩の声。
「あれ?智有ちゃんじゃん。おっはよ。朝からあえてラッキー。」
あぁ、最悪だ。
宗介先輩が私の肩を叩いた。
ふわふわの髪は、黒髪なのにチャラい。
ピアスこそ付けていないものの、耳にはピアスの跡があるのも知っている。
宗介先輩は有名人で、女子の憧れの的だ。
私には、何がいいか分からないけど。
同級生達が、宗介先輩と呼ぶので私も漏れなくそうしている。
苗字を知らないのもある。
興味もないし聞くのすらめんどくさい。
表面上は宗介先輩と私も呼んでいるが、心の中でチャラ介と呼んでいるのは本人には秘密だ。
チャラ介は最近の私の頭痛の種だった。
チャラ介の隣には、長野先輩。
長野先輩は後ろ姿がleapの了に似ている。背格好と、髪型が、すごく。
正面から見ると全然似てないけれど。
少しだけ、その長野先輩の後ろ姿を見るたびにleapの了に会えたみたいで嬉しくなる。
「おはよう。」
長野先輩はチャラ介を諌めるわけでもなく、私達に挨拶をする。
私も、長野先輩に挨拶を返す。
大人しい長野先輩は、またチャラ介とタイプが違って女子の人気を二分している。
正直チャラ介はうざいし、しつこい。
だけど先輩だから無下にするわけにもいかず、渋々付き合っている。
会うと言っても、ほぼ登校中だけだし。
噂によると、彼女が沢山居るらしいから私なんかに構わずに、彼女に構えばいいのにと思ってしまう。
聞いてもいないのに、チャラ介は1人でベラベラ喋り続ける。
「いや、ずっと入学した時から智有ちゃんの事狙ってたんだけどさ、なんか雰囲気固かったじゃん?最近柔らかくなったからやっと話かけれてさー。連絡先教えてよ。」
イライラが増していく。
静かに登校したいだけなのに。
「無理。」
そうばっさり断るのもチャラ介には何の効果もない様で。
「そんな冷たい所も可愛いなぁ。クールビューティー的な?でも俺人気者だからさー、そんな冷たくしてると他の女子に取られちゃうよ?」
そう言ってチャラ介は私にウインクした。
同級生に言わせると、チャラ介と長野先輩はものすごくかっこいいらしい。
だけど私には全く共感できない。
多分半年前まで、スタイルお化けで顔面国宝級
のイケメン達と生活していたせいだろう。
チャラ介なんてleapの足元にも及ばない。
いや、正確には足の小指の爪のカケラにも及ばない。
顔面だけでなく、性格も。
朱莉は、やり合う私達をそっちのけで長野先輩と話している。
「どうぞ。」
全くもって他の女子に取られても構わない。
「えー、素直じゃないね。」
いや、心からの言葉ですから。
声に出して返事すらしない私にチャラ介が、映画のチケットを一枚押し付ける。
「ほら、今度遊び行こうよ。来週、智有ちゃんと行きたくて映画のチケット買ったんだ。」
「無理。予定あります。」
私はチケットを押し返す。
「いや、せめて日にち確認してよ。」
明るく笑いながら、私が押し返したチケットを押し戻す。
どんなに冷たくあしらってもダメージ一つ入れられないチャラ介とのやり取りに朝からほとほと、気力を削ぎ取られる。
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