1・日常

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放課後テスト前なのもあってここ最近、学校の図書館で勉強している。 高校の図書館はそんなに広くなくて、受験前の3年生や、2年生の生徒などまばらに席が埋まっている。 テスト前の期間だけあって若干人が多い。 向かいの席には朱莉がいて、数学の問題集と睨めっこをしていた。 休学していた3ヶ月間は、那智の代わりに学校に通っていたから遅れを取り戻すのにそんな苦労はなかった。 正直、那智の成績なんてどうでも良かったからあの頃は勉強なんて全くしていなかったけど、今は別だ。毎回のテストが自分の内申点に関わるから。 私は英語の長文をシャープペンで区切りながら読み進める。 分からない単語には印を付けて。 そうして集中していると、私の隣で声が聞こえた。 「横、いいかな?」 細い柔らかそうな髪の毛に少し色素の抜けた髪色。 瞳も顔のパーツの全てが深く印象に残らない様な様なサラッとした顔立ち。 身長は私とあまり変わらないけれど女子よりも線の細い立ち姿は、まるで今にも消えてしまいそうな、図書館の精霊みたいで。 私達の学年の中では1、2を争うぐらい有名な久野 奏多(ヒサノ カナタ)君。 なかなかの塩顔で雰囲気までマッチしてるから入学したての時は女子が騒いでいた。 『塩顔王子』なんて、呼ばれたりして。 漏れなく朱莉もその1人で、中学の時は塩顔王子は芸能界で仕事していたらしいなんて本当か嘘か分からない噂を仕入れてきた事もある。 勿論、彼女のいない奏多君には未だに隠れファンが一定数いる。 みんな、別に彼女の座を狙っているわけではないと思うけど。 多分、目の前に座る朱莉もその1人だ。 「いいよ。」 私は小声で返事をして、隣の席に置いてた鞄を座席の下にずらす。 空いた隣の席に、奏多くんが座ってきた。 クラスの違う奏多くんと話し出したのは、休学から復帰した後、委員会で隣の席に座ってからだった。 「ありがと。」 奏多君が微笑む。 この今にも消えてしまいそうな儚さと透明感がなかなか図書館にマッチしていて、結構本気で 図書館の精霊なんじゃないのかな、なんて疑ってる。 正直チャラ介より奏多君の方がよっぽど良い。 うるさく無いし、静かだし。 目の前に座る朱莉が、嬉しそうにガッツポーズした。 本当、イケメンには目がない。 タイプを問わずって感じだ。 そんな素直な所がまた可愛いんだけど。 私は目の前の朱莉を見つめて静かに微笑んだ。
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