1・日常

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帰宅後、荷物の整理をしてリビングに入ると産まれたばかりの0歳の弟俊樹(としき)は小上がりの和室に寝かされていた。 リビングのTVからは音楽番組が流れている。 知らないアーティストがギターを弾きながら気持ちよさそうに歌っている。 私は、起こさない様に忍足で俊樹の横をすり抜ける。 「おかえりなさい。ご飯用意できてるけどもう温めていいかな?」 ショートの髪の毛の美由紀さんがキッチンから顔を覗かせる。 0歳児のお世話をしながら家事をこなしてくれる美由紀さんには感謝しかない。 「ただいま、お願いします。」 私はそう言うと、美由紀さんと一緒に食卓の準備をする。 私はふと皿と箸を持ったまま立ちすくむ。 聞いたことある歌声。 TVから流れている歌番組だった。 キッチンからもテレビの画面が見える。 「あら、leapじゃない。」 お皿を持った美由紀さんも、TVを見つめる。 一度leapがこの家に来た事があって、それから美由紀さんはすっかりleapにハマってしまった。 私も、美由紀さんもTVのleapに視線が釘付けだ。 本日4度目のleap。 朝はニュースの合間のcmと、電車の中の吊り広告。3度目は、帰宅前に寄ったコンビニに置いてあった、雑誌の表紙。 そして4度目はこのTV。 本当に最近よくleapを見かける。 私が気にしてるから目につくだけかもしれないけれど。 新しい曲を出したみたいで、見たことの無い振り付けだ。 だけど、やはりダンスのスキルはびっくりするぐらい高くて4人のダンス一つ一つが揃っている。 「最近那智、全然連絡よこさないから心配してたんだけど。元気そうで良かったわ。」 美由紀さんが優しく微笑む。 美由紀さんと那智は半年前まで一緒に暮らしていたから、心配する気持ちもよく分かる。 反面、那智も美由紀さんにも連絡していなかったんだと思うとホッとしてしまう自分がいた。 leapからの連絡がないのは、私だけじゃなかった。 不意に画面越しにアップで映ったのは了。 黒色のサラサラの髪の毛に女の私が嫉妬するぐらい綺麗な顔立ちで。 TV越しでもかっこいいけど、実物の方が更にかっこいいのを知っている。 半年前まで、leapのメンバーと一緒に暮らしていたから。 朝、一瞬長野先輩に似てるとか思ったけど、訂正。やっぱり、了の方が俄然イケメンだ。 TV越しなのにドキドキしてしまうのは相当な重症だ。 「あ、そう言えば…なにか智有ちゃんに言わないといけない事あったんだけど…、何だったかなぁ?」 美由紀さんがTVを見ながら首を傾げる。 「え、分からないよ。何か大事な事?」 そんな美由紀さんを見ながら、私も首を傾げる。 「緊急じゃないと思うけど…、最近物忘れが激しくて。寝れてないからかなぁ。」 俊樹が産まれてまだ1ヶ月半。 昼夜関係なく、泣き続けるから美由紀さんはなかなか睡眠が取れていないみたいで、今だってよく見ると目の下にクマを作っている。 土日は極力、父さんと協力しながら昼間、俊樹を見たりして美由紀さんに寝てもらっているけど、平日は中々難しい。 「じゃぁ、思い出したら教えて。」 きっと美由紀さんがそういうから緊急な事でもないだろう。 部屋には、leapの新曲が流れている。 相変わらず私と美由紀さんはTVから目が離せずにいて、なんとなく立ちすくんだままTVを眺めていた。
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