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1・日常
2月の半ば。まだ肌寒さを感じる今日。
窓からは気持ち良い朝の光が漏れる。
高橋智有は玄関に置かれている姿見を見つめていた。
真っ黒なセミロングの髪の毛と、ガラス玉みたいな茶色の瞳。
真っ白な肌に、少しだけ赤みがかった頬と唇。
紺色のブレザーに、チェックのスカート。
首元には真紅のリボン。
少し跳ねていた髪の毛を手櫛で整える。
半年前までショートだった髪の毛はずいぶん伸びた。
高校1年生が終わるまであと、少し。
智有は冬の朝が好きだった。
芯から冷える寒さとは反対の柔らかい日差し。
心なしか鳥の鳴き声も聞こえる。
智有はつい、歌を口ずさむ。
leapの一つ前のシングル、tie that bindsを。
leapは最近流行りの歌も、ダンスも容姿も、どこを取っても完璧なアイドル。
天馬と、ハルと那智と了の男性4人組で、智有の好きなアイドルグループだ。
そのメンバーの1人、那智は双子の兄だ。
学校では那智と双子である事を伏せている。
理由は、至ってシンプル。
ーーめんどくさいから。
那智はトップアイドルグループのメンバーの1人で私が妹だと知れた日には大変な事態になるのは容易に想像がつく。
実際、那智はleapのメンバーと同じマンションで共同生活をしており私とは住む家が別だから、バレる心配もない。
智有の父はもうとっくに出かけていた。
リビングにいるであろう、美由紀さんと産まれたての弟に声をかけた。
「いってきます。」
ここからじゃ、姿は見えないけれど。
智有はマフラーを首に結び、コートを羽織る。
学生鞄を抱えると、玄関に並んでいるローファーを履いた。
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