私はエレン

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私はエレン

私が今のライフスタイルで生きていこうと決 めたのはドロシーとの出会いがあったからに 他ならない。ドロシーとの出会いは3年前、 雨の降る日のトニーの店だった。 トニーの店はダウンタウンの安い飲み屋が立 ち並ぶ一角に在って、ふらっと入っただけだったが私はこの店が気に入って通い始めた。 店主のトニーが良い人で常連客との仲を取り持ってくれて私もすぐに常連になれた。 二か月ほど通ったある雨の日。一人の客が入ってきた。初めて会う人でトニーが紹介してくれたのがドロシーだった。彼女は私に本来の自分を取り戻させてくれた恩人である。 長い髪を後ろに束ねてスカートにジャケット姿の彼女は一見してトランスジェンダーと分かる容姿であった。私はカウンターに座った彼女の所に行き同席を求めた。 初対面で図々しく近寄ってきた男を彼女は怪訝そうな顔をしながらも応じてくれて私は隣に座った。 自分はセールスマンをしていて独身で地方から来たことなど自己紹介をした。話の本題に入ろうとしたのだが言葉が出てこなくなった。頭の中で話すことは分かっているのだが思考が停止してしまった。涙が溢れて止まらなくなり声を殺すことも出来ずに号泣した。トニーはショック症状を起こしたと思い救急車を呼ぼうとしたがドロシーがそれを止めた。そして私が泣き止むまで待っていてくれた。5分ほどして私は泣き止み水を飲んで落ち着きを取り戻した。 ドロシーは私に「あなたも自分を偽って生きてきたのね」と言って私を抱き締めてくれた。嬉しかった。初めて同じことを同じように理解してくれる人に出会えた。 それから彼女とお互いの今までの人生を話して夜を明かした。彼女は私にエレンという名を付けてそう呼んだ。彼女の好きなSF 映画のヒロインの名前だそうで苦境に屈しないところが好きなのだそうだ。私は有難くその名を頂いた。そして私もドロシーと同じように外見を心の性別と同じにしてみた。 最初は皆、驚いたが理解してくれる人もいて少し安心した。だが、一部の人達は憎しみを込めて毛嫌いしてきた。 持ち物は無くなる、壊される、ゴミ箱や便器の中に捨てられる。同席を断られる。生きていることを否定される。 一体その憎しみが何処から湧いてくるのか私には理解できないが身体が危険に晒される事件も起きている。最近になってSDGsなるものが提唱されジェンダー平等を謳い文句にしてはいるが現実はまだほど遠い。 でも、いつかはセクシャルマイノリティが安心して暮らせる世の中に変えてみせる。 私はエレン。この名は苦境に屈しない名前。 私の誇り。
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