34.描き続けたい物語

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何年分もの時間を埋める必要もないように、すぐに祖父との距離はなくなった。 それは父も母も同じで祖父と祖母とは食卓を囲む頃には和やかに家族の会話をしていた。 将棋はご飯の前に勝負がつくはずもなく、スマホで写真を撮っておいて次来た時に再開することにした。 次の約束は、してないけれど必ず続きをやろうと祖父は楽しそうだった。 祖父が福島第1原発の近くの請戸に住むようになったのは、元々いた室原地区の人たちも少しずつではあるが浪江町に新居を建て地元近くに戻ってきていることもあるからだった。 高齢者が多ければ地域医療は必要になる。自然災害等が生じた時にも小さなことではあるかもしれなかいがかかりつけ医は必要だと官民連携で地域医療を支えるため、復興の途中にある請戸に病院を作ると決めたそうだ。 「フィリピン(ふるさと)に仕送りをするために日本に留まる人がいるなら、その人たちと一緒に会社を作っていけばいい。それに、深池重工が操業停止になって仕事がなくなってしまう人も出てくるんじゃないか。」 食事の後に、祖父が父に話したことは、父の思っていたことと合致したようだった。 「会社の理念は社会貢献。工場を再建するならどんな人を集めて、どんな仕事をやっていくのか。 産業ロボットの開発が進んで人の働き方は変わってきている。 だけどな、仕事の根底にあるのは人の真心だ。 病院だって、マイナンバーカードで病気と薬の管理は自動的にできるようになったし、診療だってオンラインでできるようになったけど、健康にはAIにはわからない人の心の揺らぎが関わっている。だからな、直接診療だってなくならないんだ。 武範が持っている技術、先代が残した技術。誰かの役に立とうと作り上げた財産(たからもの)だ。 それを次に繋げるために後継者を作らないといけない。」 祖父はそこまで話すと俺を見た。 「祈は、半導体の研究者になるって決めてる。俺の先輩だって、祈に期待してるんだ。」 父は祖父が、余計なことを言い出すんじゃないかと少し慌てたようにそう言った。 確かに俺は、ザックに就職したいし魚沼先生と半導体の研究がしたい。 「何も家族が後を継がなきゃならないなんてルールはないだろ。これからできる社員たちと考えていけばいい。 一度目は、武範(お前)が先代のものを引き継いだ。これから作る会社は、お前が作って先代の思いを伝えていくんだ。 それが将来、祈と一緒にを作ることに繋がるんだろうからな。」 俺と父が将来いっしょに作るもの……本当に実現させたいとワクワクしてきて思わず口角が上がった。三神さんの顔を見ると、優しく微笑んでくれた。 三神さんを見ている俺の頭に祖父の手が乗った。 「じいちゃんが生きてるうちに実現しなかったら2人ともあの世で地獄行きだからな。」 こんなことを言いながら祖父は楽しそうにしている。 「え、こわ。」 俺が思わずそう言えば、俺の横で三神さんがクスクス笑う。 三神さんの意地悪は、祖父譲りかもしれない。
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