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過去の記憶を取り戻した朔次郎の目には光が宿っていた。あれほど嫌いだった――いや、無関心だった木が、今はとても美しく見える。 燐は言っていた。桜が咲いたら、また会える。燃やされ、枯れてしまった木が花をつけることなど、有り得ない。だから会えることもない。咲夜は、そう思っていた。 しかし朔次郎の目の前で、燐と咲夜が気に入っていた枝垂れ桜の花が咲き、奇跡は起こると告げている。 しばらく桜に見とれていると、夕日が出ているにも関わらず、ぽつり、ぽつりと降り始めた雨が頬に当たり、思わず空を見上げた朔次郎の背後で柔らかい声がした。 「…ふふ。兄様ったら、また泣いているの?」 朔次郎は心地よい呪縛の気配に胸を踊らせ、振り返って微笑んだ。 「違うよ。雨が…雨が降ってきたんだ!」 (了)
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