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たまたま村を通りかかった帝が、沢山の桜の木が満開の花を咲かせているのを見て『華美村』と名付けるほど、村は美しかった。
人々は、その光景に感謝し桜を神の象徴として崇めていたが、何故、桜の木が多いのかは誰にも分からない。
ある時その村に、みすぼらしい格好をした幼い少女が迷い込んできた。四方八方からもこもこと、まるで雲のように頭上を覆う花を物珍しげに見つめながら、ふらふらとした足取りで吸い寄せられるように村の奥へと入っていったが、ある場所まで来ると立ち止まり、そこから一歩も動かなくなった。
村の中で一番大きく色濃い花をつける枝垂れ桜が、少女の瞳いっぱいに映っている。
「…お前さん、どこから来たんだい?」
枝垂れ桜の近くにある茅葺き屋根の家から出てきた老婆が優しく声をかけ、家はどこだとか、親は誰だとか尋ねても少女は首を横に振るだけだったが、唯一、名前だけは「燐」と口にした。老婆は村の長である夫と話し合い、子どものいなかった二人は燐の面倒を見ることにした。
それからしばらくして、また子どもが迷い込んできた。燐と同じ年頃の少年だ。燐よりも上等な着物を着てはいたが、同じく口にしたのは名前だけ。少年は咲夜と名乗った。
咲夜と目が合うと燐の目尻が僅かに下がった。村で生活するようになってから、食事は摂るものの口はきかず、硬かった燐の表情が和らいだことに気づいた二人は咲夜も引き取ることに決めたのだった。
こうして燐と咲夜は、二人の愛情を受けて実の兄妹のように育てられ、成長していった。
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