はじまりの桜並木で

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なにがなんだか、さっぱりわからず、おれはそのまま一日を過ごす。 「なんだよ、元気ないじゃん。どうした?」 昼休みになって、同じクラスで友人のコータが、パックのジュースのストローを咥えながら訊ねてくる。 「今朝、桜並木で変な女の先輩につかまった……」 「変な先輩って、もしかしてゆあさん?」 「ゆあ? コータ知ってるのか?」 「結構有名じゃね? JKのベーシスト」 「じゃあ、弾いてたあれはベースだったのか」 「うん。バンドも組んでるし、ライブのゲスト参加もやってるけど、理想の声に出会えないってよく嘆いてて、美人だけど残念だって、先輩たちが話してた気がする」 「ふーん……」 「まぁ、よかったじゃん。彼女になってくれるかもよ」 「いらない。おれは平凡に高校生活を終えたいんだ。あんな目立つひとと知り合いになって、その平穏を崩されたくない」 「なるほどなー。せっかくの機会なのに、もったいない。おれからすれば羨ましいけどな」 「じゃあ代わりに放課後行ってくれよ」 「それはむりだよ。ご所望はおれじゃないし、そもそも部活あるし」 「はぁ……」 数時間後には、またあのひとと顔を合わせないといけないのかと思うと、気が重い。
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