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「さぁ、遠慮なく、きみが得意な曲を歌ってくれ」
「そんなもの、ありませんよ。聴く専門なんです。別に音楽には詳しくないですけど」
「なるほど、出し惜しみしているのか。わたしの力だけで落としたかったが、仕方ない」
……はい?
今、落とすって言いましたよね、このひと。
なにを考えているのか、明確でないまま、数分して違う制服の女子……おそらく彼女もまた上級生……が背中に大きな荷物を背負ってやってきた。
その制服はたしか、このあたりで有名なお嬢様学校だったか。ほぼ膝丈のスカート、化粧気のない顔、その見た目が、上品さをまとっている。
「ゆあ、いきなり呼び出すの禁止って言ったじゃん。もう帰り支度済んでたからすぐ来られたけどさっ」
「すまない。この少年を落とすには、わたしだけでは役不足だった」
「えっ、もしかして、この子がゆあの欲しい子? ついに見つけたの?」
「いや、まだだ。だが、少年には素質がきっとある。直感がそう言っている」
「ふーん、なるほどねぇ」
荷物を肩から下ろし、なんのためらいもなく準備をしながら、お嬢様先輩(仮)はギターと思われるものを抱えた。
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