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「少年くん。わたしはメイだよ。ゆあに見初められるなんてすごいね。わたしもぜひ、きみの歌声を聴いてみたいなぁ」
一音一音出しながら、おれに笑顔を向けてくる彼女。その微笑みは、女に免疫がない男なら自分に気があると勘違いするやつだ。
「いや、歌いませんよ。ここにも、無理やり連れてこられただけで、自分の意思じゃないし」
「それはどうだろう。体格差からして、きみの方が力はあるのに、わたしの手を振り払うことはしなかった。本当は、興味があるんじゃないのか?」
メイさんと同様ストラップを掛け、楽器を抱えたゆあさんに言われたことに、なぜか胸がドキッと反応した。
「っ、そんなことないです。だって、友人に教えられるまで、今朝あなたが弾いてた楽器がなにかさえ、わからなかったんですよ」
「それは、大したことのない誤差だ。おいおい知っていけばいい。みな、誰しもわからないところから始めるのだから」
たしかに、それはごもっともだ。
「……取り急ぎチューニング完了したかな。とにかくさ、少年くん。わたしのギターに合わせて歌ってみてよ。歌声はきみのものだけだけど、わたしもゆあも、一緒にひとつの曲を披露していることには変わらないよ」
「そう、音楽はチームで作るものだ。ひとりで完結できるものではないと思っている。安心して、少年の思うまま、音を出してみてくれ」
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