1人が本棚に入れています
本棚に追加
いやいや、そんな簡単に言われましても。
それが容易でないと感じるひとが、ここにいるんですよ、約1名。
おれの思っていることなど知らないメイさんが、構えている楽器の弦を弾く。彼女が奏でるメロディは、最近話題のドラマの主題歌となっている曲だ。さすがのおれでもそれはすぐにわかった。その音に重ねるように、ゆあさんも自分の楽器を弾き始める。ベースというものの役割は、ピアノの伴奏に似ている気がするが、それとは違っている部分もあってかっこいい。
旋律は、メインの部分に差しかかろうとしている。
演奏しているふたりが、ほら、という目配せをおれにする。
あぁ、もう。
たった1フレーズ歌うだけで解放されるなら、やってやるよ。
もう、どうにでもなれ。
歌い終わったときには、自然と息が上がっていた。
この桜並木は、目立つ場所ではあるけれど、おれたちにだれも気に留めていなかったはずなのに、いつのまにか観衆がいて、拍手をもらっていた。
「え……やば……」
メイさんは、なんだか意気消沈している。
「少年、やってくれたな」
「は……」
ただならぬ雰囲気を感じるゆあさんに両腕をガシッと掴まれ、おれは怯んで後ずさりしてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!