はじまりの桜並木で

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いやいや、そんな簡単に言われましても。 それが容易でないと感じるひとが、ここにいるんですよ、約1名。 おれの思っていることなど知らないメイさんが、構えている楽器の弦を(はじ)く。彼女が奏でるメロディは、最近話題のドラマの主題歌となっている曲だ。さすがのおれでもそれはすぐにわかった。その音に重ねるように、ゆあさんも自分の楽器を弾き始める。ベースというものの役割は、ピアノの伴奏に似ている気がするが、それとは違っている部分もあってかっこいい。 旋律は、メインの部分に差しかかろうとしている。 演奏しているふたりが、ほら、という目配せをおれにする。 あぁ、もう。 たった1フレーズ歌うだけで解放されるなら、やってやるよ。 もう、どうにでもなれ。 歌い終わったときには、自然と息が上がっていた。 この桜並木は、目立つ場所ではあるけれど、おれたちにだれも気に留めていなかったはずなのに、いつのまにか観衆がいて、拍手をもらっていた。 「え……やば……」 メイさんは、なんだか意気消沈している。 「少年、やってくれたな」 「は……」 ただならぬ雰囲気を感じるゆあさんに両腕をガシッと掴まれ、おれは怯んで後ずさりしてしまう。
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