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快感を感じなかったと言えば嘘になる。
だから、メイさんの言うことはわからないことはない。
でも、だからと言って、このまま従う気はない。平穏無事に生活したいという自分の思いが最優先される事項なのは間違いないはずだ。
「……仕方ないな」
「え」
風とともに散った桜の花びらが舞い、ふわりと揺れるゆあさんの髪と、花のにおい。
「ちょっ、ゆあ!」
「手に入らないなら、力づくででも手に入れるまでだよ。少年、きみはわたしの見てくれを気に入ってくれたようだね。きみが少しわたしに力を貸してくれれば、わたしの体はきみの思うままだ」
唇に触れた、柔らかい感触。
おれの口を塞いだものから発せられる言葉。
なにが「力づくでも手に入れるまで」だ。
そんなこと、おれは知らない。
あなたに少しでも視線を向けてしまったおれがいけない。
……いや。
風に舞う桜の花びらのせいだ。
「わかりました。その話、引き受けます」
「えっ」
「きみならそう言ってくれると思っていたよ、少年。これから、わたしたちとともによろしく頼む」
驚くメイさんをよそに、おれはゆあさんと握手した。
あぁ、なんてばかなことをしているのだろう。
自分から、平穏な生活を手放し、茨の道を進もうとしているなんて。
すべてはそう、桜のせい。
絶対、そのせいなんだ。
この日から、おれにとって桜はもっともきらいな花になった。
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