第1セット「ソップー!!(ストップ)」

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「柚希ちゃん。最初の基礎打ち、一緒にやろうよ」 橋場に何か言われたのだろう、真綾が声をかけてくる。 「うん」 だが柚希にとってそんな理由はどうでもよかった。 コートに立つ時間が多ければ多いほど、柚希はワクワクした。 思いきり身体を動かし、シャトルをラケットで打てる瞬間が最高に気持ちよかった。 「真綾、一緒にやろー」 「ごめん、柚希ちゃんとやるから後でね」 それでも真綾が周りから声をかけられるのを見ると、スンッと気持ちが冷めていく。 「あんた、私に声かけなくても相手いるじゃん」 「あたし、柚希ちゃんの相棒だもん。早く柚希ちゃんのクセになれたいからね。それに基礎打ちはみんなで回してやるでしょ?」 「……義務感かよ」 何故、こうもイライラするのか。 誰かが一緒と思うだけで途端に足取りがわからなくなる。 (なんて窮屈……) 思いきりシャトルを打ち飛ばせばどこまでも飛べる。 足かせはいらない。 「ま、待ってよー」 一人、コートの中へ歩いていく柚希の背に手をのばし、真綾は追いかけていった。 *** 部活が終わっても柚希には心が晴れなかった。 圧倒的にコートに立てる時間が短い。 部活の練習が足りないなら外で補えばいい。 外で大人たちに混じっての練習。 本や動画をみて改善を繰り返す。 けれども中学部活はあの場所だけで、替えがきかない。 もっと強くなって誰にも有無を言わさない。 だがダブルスになると壊滅的。 団体戦での選抜チームで戦えるシングルスは一人だけ。 団体戦では柚希より弱くても、ダブルスが出来るというだけで選抜になる。 ――あぁ、イライラする。 シングルスとして強い自分を誇らしく思うのに、満たされない。 強くなればなるほど、柚希は崖から下を見下ろすようになっていた。
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