1人が本棚に入れています
本棚に追加
「柚希ちゃん。最初の基礎打ち、一緒にやろうよ」
橋場に何か言われたのだろう、真綾が声をかけてくる。
「うん」
だが柚希にとってそんな理由はどうでもよかった。
コートに立つ時間が多ければ多いほど、柚希はワクワクした。
思いきり身体を動かし、シャトルをラケットで打てる瞬間が最高に気持ちよかった。
「真綾、一緒にやろー」
「ごめん、柚希ちゃんとやるから後でね」
それでも真綾が周りから声をかけられるのを見ると、スンッと気持ちが冷めていく。
「あんた、私に声かけなくても相手いるじゃん」
「あたし、柚希ちゃんの相棒だもん。早く柚希ちゃんのクセになれたいからね。それに基礎打ちはみんなで回してやるでしょ?」
「……義務感かよ」
何故、こうもイライラするのか。
誰かが一緒と思うだけで途端に足取りがわからなくなる。
(なんて窮屈……)
思いきりシャトルを打ち飛ばせばどこまでも飛べる。
足かせはいらない。
「ま、待ってよー」
一人、コートの中へ歩いていく柚希の背に手をのばし、真綾は追いかけていった。
***
部活が終わっても柚希には心が晴れなかった。
圧倒的にコートに立てる時間が短い。
部活の練習が足りないなら外で補えばいい。
外で大人たちに混じっての練習。
本や動画をみて改善を繰り返す。
けれども中学部活はあの場所だけで、替えがきかない。
もっと強くなって誰にも有無を言わさない。
だがダブルスになると壊滅的。
団体戦での選抜チームで戦えるシングルスは一人だけ。
団体戦では柚希より弱くても、ダブルスが出来るというだけで選抜になる。
――あぁ、イライラする。
シングルスとして強い自分を誇らしく思うのに、満たされない。
強くなればなるほど、柚希は崖から下を見下ろすようになっていた。
最初のコメントを投稿しよう!