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気がつくと、私はバスルームで横たわっていた。
茹だるような真夏の風呂場で、服のままシャワーを被ったかのような大量の汗をかき、あたかも被害者のような姿勢で横たわっていた。
「…………静か、だ……」
湯船に向かって吐き出されたままのシャワー、小さな窓の外で喧しく蝉が鳴いていたが、わたしはそうこぼしていた。
天井に向けて立てていた片膝を降ろし、動き出した死体のように、どうにか上体を起こす。濡れた綿のロングスカートがペチャ……と音を立てた。それには壮絶な赤も滲んでいた。
床に座った状態で、盥を見つめた。否――盥に置かれた、得体の知れない不気味な球体を見つめた。
心の準備が整うまでの、長い数十秒。放心したように視線を向けていたが、頭の中にはあらゆる感情が濁流を起こしていた。
ドキン、ドキン――と、緊張に心臓が音を立てはじめた。
時間を稼ぐように、汗で頬に張り付いた髪を腕で拭う。
卵、と表現していいだろうか。
赤子の頭くらいの大きさをした、卵型の球体。それは皮フの色をし、半透明で、所々ピンクや青紫のような気色の悪い斑点を浮かべていた。中に張り巡らされているのだろうか、薄らと血管のような赤も透かせている。
恐る恐る手を伸ばす。距離が近づくにつれて、呼吸がまた、浅く、速くなる。
そうして、わたしはついに。それに触れた。
「……ッ」
指先が触れた瞬間、気色の悪さに腕が粟立った。透明の殻のようなものはまだ柔らかく、生温かくて、中からはドクンドクンという僅かな鼓動を感じる。
気色悪い、気持ち悪い、得体が知れない。だけど、こうした恐れの類の感情が……だんだんと愛おしさに変わっていくのが解った。
これが、わたしが産んだモノ――。
出産の時のパニックを伴うような類の恐怖はもちろん、先ほどまでの、正体不明のものを目の当たりにした恐怖心もなくなっていた。
指先で触れていただけだったものが、両の手のひらで包み込むようになっていた。しっとりと張り付くような感触に、まるで求められているような気がした。
わたしはそれを一度床にそっと置き、盥に溜め直したぬるま湯に浸けた。擦らないように気を遣いながら、手のひらで優しく洗う。
その卵をタオルで包み、乾かすと、気持ち殻の透明度が減ったようだった。より白っぽくなる。
わたしはここへ来て、ついに歓んだ。出処の解らぬ涙があふれてきて、泣きながら、この卵の誕生を心の底から祝福した。
そして決意した。孵るのかも分からぬこの卵に似た生命と、一生、共に生きることを。
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