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――活気のある城下町では、今日もまた広場で民たちが笑みを浮かべて騒いでいた。
広場には屋台が並び、花などで飾られ、その中をバイオリンや管楽器を吹く吟遊詩人の集まりが盛り上げている。
老若男女問わずに食事とワインを楽しみ、さらに流れる音楽を聞いて踊り出す。
ビアン王国の都――王都では、ここ数日はいつもこの光景を見ることができた。
それは今日の午前から、この国の軍――ビアン兵団の入団試験が始まるからだった。
ビアン兵団は、世界中に魔物が現れてから結成された組織だ。
それまでは魔物が現れることもなく、戦争もまったく起きなかったのもあって、人は戦うことを忘れていた。
そのため、突然現れた魔物に抵抗する術がなかったのだ。
しかし、先々世代のビアン王国の王は、いずれ現れるであろう人間の脅威に対して準備をしており、腕が立つ者や魔力の高い者を集めていた。
それが後のビアン兵団の母体となり、今日へと続いている。
民衆たちが祭りのように盛り上がっているのは、今日でまた世界に誇る我が国の兵団に、新しい英雄が誕生するのだと祝っているからだ。
年々入団希望者は増え続けて各国から大勢の人間が集まっているのもあり、今年は二日に分けて試験が行われている(ちなみに今日は二日目だ)。
そんな祝祭の雰囲気の中――。
銀髪の女剣士――ビティー·ムーンアンダーが歩いていく。
彼女は今年で成人を迎え、ビアン兵団に入団できる年齢になった。
ビティーのような貴族は、家名と自身に箔をつけるために入団する者が多いが、彼女は違う。
幼い頃から正義感の強いビティーは、けして自分の経歴のためではなく、魔物の脅威に怯える人々のためにビアン兵団に入る。
両親の反対を押し切って剣を覚え、戦場で味方や怪我をした者を治すために回復魔法も習った。
名門で知られるムーンアンダー家の名に恥じない貴族、そして志を持つビティーだが、彼女には兵士として大きな問題があった。
「誰かその男を止めてちょうだい! そいつは泥棒よ!」
民たちが盛り上がる中で、盗みを働いた男がいた。
男が人込みを嫌って路地裏へと入り、ビティーは捕まえようと犯人を追いかける。
そして、行き止まりだった路地裏で犯人を追い詰め、腰に帯びた剣を抜いて突きつけた。
「さあ、盗んだものを返しなさい。大人しく捕まれば、少しでも罪が軽くなるように手伝ってあげるから」
ビティーは長い銀髪をさっと払いながら、男を説得した。
だが、犯人の男は捕まってたまるかと声をあげる。
それから男は、奪った荷物を放り捨てると、隠していた握斧を持って、彼女へと襲いかかった。
ビティーは突き出していた剣を吹き飛ばされ、これがチャンスとばかりに男が放ったショルダータックルで、思いっきり壁に叩きつけられてしまう。
痛みで呻く彼女を見て、男が言う。
「なんだカッコだけかよ。弱いくせに粋がりやがって。ビビッて損したぜ」
そう――。
ビティーは弱かった。
彼女は幼い頃から剣や魔法を習っていたが、その師についた者たちの誰もが“才能がない”と口にするほどに。
しかし、それでもビティーはけして剣を捨てずに、魔法を学ぶことをあきらめなかった。
多くの大人や両親でさえ、ビティーに戦いは向いていないと言っても、彼女の決意は崩れなかった。
それでも約十年積み上げてきたビティーの剣技や魔法は、ようやく素人に毛が生えた程度のもの。
町の力自慢にさえ敵わないのが、今のビティーの実力だった。
「女……テメェ、貴族だろ貴族なんだろ? 気に入らねぇ。オレはテメェみてぇな弱いくせに貴族だからって偉そうにしてる奴が、一番ムカつくんだよ!」
男はビティーの身なりを見て、彼女が裕福な生まれの人間であるとわかると、顔を真っ赤にして怒り出した。
もしビティーが男を力でねじ伏せることができたら、また話が違っただろう。
どうも階級の低い者は、腕っぷしの強さでその人間を測る傾向にある。
「貴族に生まれたってだけで人生に勝った気になってんじゃねぇぞ! オレはこれから人生に勝つんだ! 金持っててヘラヘラ楽しそうに笑っている連中から奪って殺してな!」
男は自己主張を撒き散らすながら握斧を、ビティーの頭上へ振り落とした。
だが、斧は彼女の頭に落ちなかった。
それは斧を振り落とす前に、ある人物によって男の腕が掴まれたからだった。
「ダメだよ、おじさん。そんなことしちゃ」
男の腕を掴んだ人物は、ずいぶんと背の低い女だった。
幼い顔にその体の小ささから少女かと思ってしまいそうだが。
背中に明らかに体のサイズと合っていない大剣があるところを見て、ビティーは彼女が子どもではないと思った。
「あん!? なんだこのガキ!? 邪魔すんならテメェも殺すぞ!」
「いちいち大声出さないでよぉ。まあ、それにビビる人がいるから威嚇になるんだろうけどね」
背の低い女が呆れながらそう言った横では、男が斧を持つ腕を動かそうとしていた。
でも動かない。
もう一方の手を使っても女の手は離れない。
「ところでおじさん。実はあたし、今日この国に着いたばかりでさ」
背の低い女は、男から斧を取り上げながら言葉を続ける。
「ビアン兵団だっけ? その入団試験がどこでやっているのか知らない?」
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