03

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――ビティーは路地裏で出会った背の低い女と共に歩いていた。 危ないところを彼女に救われたのもあり、二人は今ビアン兵団の入団試験会場へと向かっている。 盗みをした男はというと、必死に抵抗したが、結局、背の低い女に押さえられて警備の者に捕らえられた。 「あなた、強いのね。それになんだか荒事に慣れてる感じもするし、どこかで鍛えてたの?」 ビティーは背の低い女が右腕一本で泥棒を捕らえたのを見て、彼女の腕っぷしに驚いていた。 しかし彼女は、どうでもよさそうに返事をする。 「えッ? ああ、あんなの大したことないよ。それよりもあたしはフェバリっていうんだ。あんたの名前は?」 「あッごめん。名乗るのが遅れちゃったね。わたしはビティー、ビティー·ムーンアンダー」 「ふーん。ビティー·ムーンアンダーね。じゃあ、ビティーでいい?」 フェバリと名乗った背の低い女は、気さくな態度でビティーと話していた。 泥棒を取り押さえているときの会話から、彼女がビアン兵団に入ろうとしていたことをわかっていたビティーは、案内役を買って出たのだ。 助けてもらったことのお礼もあって、王都は初めてだという彼女のために。 「その剣、すっごく大きいね。失礼なこと言うかもしれないけど、あなたの体格に合ってないんじゃないの?」 「うーん。戦場じゃ子ども用の武器なんてなかったから、自分の体よりも大きな武器に慣れてるんだ。あと普通の武器じゃすぐ壊しちゃうんだよ。あたしって物持ち悪いからさ」 フェバリの答えに、ビティーは彼女の強さに納得していた。 おそらくこの背の低い女は、家庭事情か何かで、幼い頃から(いくさ)に出ていたのだと考える。 フェバリの赤い髪が短くまるで男のようにしているのも、きっと戦いの邪魔にならないためだろうと、ビティーはじろじろと彼女を見ては想像をふくらませていた。 二人が石畳の道を進んでいくと、ビアン兵団の入団試験会場へとたどり着いた。 広場には若い男女が集まっており、誰もが緊張した様子で列をなしている。 ビティーも受付を済ますため、フェバリと列に並んだ。 「ビティーも入団試験を受けるんだね。でも大丈夫なの?」 「大丈夫ってなにが?」 「だってビティーって弱いでしょ? あんなおじさんにやられそうになってたんだから」 「うぅッ!? そ、それは……」 遠慮のない物言いにビティーは顔をしかめたが、フェバリの言ったことは事実だったため、何も言い返すことができなかった。 気まずそうにしているビティーに、フェバリは言葉を続ける。 「まあ、それでも別に辞めろなんて言う気はないけどねぇ。たしか貴族さまが入団するといろいろと箔がつくんでしょ? 別に兵団に入っても戦場へ行く必要もないって聞いたし」 「そんなんじゃないよ、わたしは。ただ魔物に怯える人たちを守る仕事に就きたいってだけ」 「おうおう。弱いのに言うねぇ。でも、そういうのは大好き……。大変失礼なことを言ってすみませんでした」 フェバリはビティーの話を聞くと、突然その場で頭を下げた。 深々と頭を下げた彼女を見て、周囲にいた者たちからヒソヒソと声が漏れてくる。 一体何事だ? 身なりからして貴族の女が平民の女に謝るように言ったのか? など、勝手な憶測で想像をされているようだった。 慌てたビティーは、すぐにやめてとフェバリの顔を上げさせたが、彼女は今のは自分が悪いと言って聞かない。 「いやいや、今のは絶対にあたしが悪いもん。ビティーのことを勝手に推し量って悪いこと言ってしまった。本当にごめんなさい」 「もういいから! フェバリが謝ってくれるのは嬉しいけど! そのせいで変な誤解されちゃってるよ!」 絵面的にも、貴族の女が小さい女に突っかかって謝らせているように見えたのだろう。 フェバリが自分の非を認めたのは良いことだったが、彼女の態度のせいで、ビティーとフェバリは周りから距離を取られるようになってしまった。 ビティーは明らかに引いている他の入団希望者を見渡しながら、半泣きで乾いた笑みを浮かべるしかなかった。 それから受付を済ませ、広場に皆が整列させられた。 その集まった者たちの前には、簡易的な壇上が用意されており、そこへ女が上がってくる。 「えー、どうもこんにちは皆さん。私がビアン兵団の兵隊長の一人、ガートルード·ブルパームでーす。今日の入団試験の面接官的な立場をやらせてもらうから、よろしくねー」 隻眼の黒髪を一つに束ねている女――ガートルード·ブルパームが挨拶をすると、会場から声が拍手喝采が起こった。 ビティーも他の者たちと同じく拍手をしていると、フェバリが不可解そうに訊ねてくる。 「ねえ、ビティー。なんか緩そうな女の人が出てきたけど、あの人って偉いの?」 「偉いも何もあなたガートルード兵隊長を知らないの!? あの人はビアン兵団でも一、二を争うほどの実力を持った人なんだよ!?」 「ふーん。とてもそんな風には見えないけどなぁ。なんか喋りながらずっと食べてるし」 ビティーはビアン兵団でも有名な兵隊長を知らないフェバリに呆れながらも、彼女の言っていることもわかると思った。 なぜならばガートルードは、国主催の一大行事である入団試験の責任者という立場だというのに、ずっと果物を頬張っているのだ。 それに態度もどこかどうでもよさそうで、本当にここはビアン兵団の入団試験の会場かと思ってしまう。 「じゃあ、それぞれ自分のやりたいチームの役割に分かれてもらうから、全員が分かれたら試験を始めるよー」 ガートルードの態度に不安を覚えながらも、ビティーは自分が望むポジションの班へと歩を進めた。
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