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入団希望者の班分けがされる。 これは先ほどガートルードが言ったように、入団希望者のビアン兵団での望む役割を知るためだ。 兵団とはいっても誰もが剣を持って戦うわけではない。 戦場の最前線で戦う者から、その者を支える補助役。 さらには前線にこそ出なくとも、傷ついた者を治す仕事や斥候など役割は様々である。 ビアン兵団の入団試験は、基本的に誰も落ちることはないが。 毎年入団希望者が多いとはいっても、世界中を飛び回って魔物を狩る兵団は常に人材不足である。 そのため、まずは本人の希望の職種を選び、試験官がその適性を見極めて、より希望者にあった役割を与えられる仕組みになっている。 ここで問題になるのが、必ず本人が望む役割につけるわけではないことだ。 前線を希望しても後方支援へ回されて辞める者も多くいる。 後方支援も重要な役割ではあるが、やはり前線で魔物と戦う仕事が兵団では花形。 英雄にあこがれて入団する若者の多くが前線の仕事に就きたがる。 だが兵団での最前線での仕事は、自分の命が危ないだけでなく、小さなミスで救助対象や味方すら危険にしかねない。 そういう理由から、たとえ直接戦闘の才能があっても、状況判断や他人との連携、戦う以外の力も求められる。 そして、望む役割につけなかった者らのほとんどが、「想像と違った」と吐き捨てて一週間も経たないうちに辞めていく。 試験に落ちる者はいないとはいっても、結局はその者の肉体的な強さ、才覚、人間性で入団が決まるのだ。 さらに言えば、入団した後こそ本番だ。 交代で休みは取っているものの、突然戦場へ行くように指示されることもある。 休みがないのは当たり前で、そんな疲労がたまった状態で戦って命を落す者も多い。 実際に、年々戦死者の数は増えている(その反面、被害者の死亡者は減っている)。 一見して煌びやかな世界に見えるビアン兵団だが、あこがれだけでは続かないのが現実だった。 「名前はビティー·ムーンアンダー。ふむふむ、ムーンアンダー家のお嬢さんか。それで志望配置は前線ならばどこでもいいと……。めずらしいね。みんなどうせ前線なら攻撃役やりたがるのに、どこでもいいなんてさ」 ビティーとの面接で彼女の提出した書簡に目を通すガートルード。 面接中でも変わらずに果物を頬張っている様子からして、彼女はいつもこんな調子なのだろう。 リンゴを咀嚼する音が、静かな幕内に響いていた。 「はい。前線ならば、たとえどんな役割でも現場でも人を助けられると考えての希望です」 「たしかに、君は剣も使えて回復魔法も多少覚えてるみたいだしね。この紙だけ見ると、とっても前線向きだと思うよ。動機も真に迫ってるし」 「ありがとうございます」 ビティーはガートルードの言葉を聞き、思わず表情が緩んだ。 この感じならば、想像していたよりも簡単に前線の団員に選んでもらえるかもしれない。 「じゃあもういいよ。あとで指示があるから、外で待ってて」 「えッ? あの……もう終わりなんですか?」 「うん。これで面接は終了」 ビティーは数分で終わった面接に違和感を覚えながらも、ガートルードに従った。 今の短い時間で一体何がわかるのだろうと思いながら、彼女は幕の外へと出る。 それから兵団の関係者と思われる人間に案内され、待機場所へと向かった。 「ビティーも前線希望だったんだ。奇遇だねぇ」 待機場所には、偶然知り合った赤毛の女――フェバリもいた。 どうやら彼女もまた、ビティーと同じく前線のメンバーになりたいようだ。 ビティーは、わざわざ他国から王都まで出向いて来たのだから、花形である前線を希望するのも当然かと、ひとり納得していた。 それにフェバリが路地裏で見せた力は、とても素人とは思えぬものだったのもあって、彼女ならば選ばれてもおかしくないとも思った。 ビティーやフェバリ、他の者たちがしばらく待機していると、眼帯の女――ガートルード·ブルパームがその場に現れた。 ようやくすべての入団希望者の面接が終わったのか。 酷く眠たそうな顔で、今度はブドウを皮ごと頬張っている。 「それじゃ、これから移動するよ。数日は帰ってれないから、都合が悪い人は入団をあきらめてね」 ガートルードは待機してきた入団希望者たちにそう声をかけると、用意されていた馬車に乗り込んで出発していった。 いきなり移動すると言われた入団希望者たちは、誰もが戸惑いながらも、馬車に続いて歩き始めている。 それでも何十人かはその場に残っていた。 それも仕方がない。 なぜならばビアン兵団の試験は、会場でやるということになっていたからだ。 それが急に場所を変えると言われても、事情があって王都から動けない者は、ここで断念するしかない。 「なんか移動で結構な人数か減っているけど、ビティーは大丈夫なの?」 「これくらいは想定の範囲内だよ。兵団の仕事ってのは、たとえ休みのときでも動けるようにしておくのが基本なんだから。いきなり予定が変わったくらいでついて来れないなら、そもそも団員に向いてない」 「あ、そういうことなんだ。うんうん。ビティーがいると兵団へと理解が深まりますな」 ビティーはのんきに言うフェバリを見て呆れたが、すぐに気持ちを引き締めた。 これから試験の本番が始まるのだと。
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