06

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――サファイアとの模擬戦に敗れたビティーは、ようやく目を覚ました。 いつの間にかベットの上に寝かされており、痛む身体を無理矢理に起こすと、傍には背の低い赤毛の女――フェバリがいる。 フェバリは椅子に座ったまま眠っていた。 彼女の衣服は焼け焦げており、さらには顔などに浅い斬り傷があった。 「フェバリ……あなたまさか……?」 ビティーは彼女の姿を見て、すぐに気がついた。 きっと自分が気を失っているときに、フェバリはサファイアと戦ったのだと。 両目を見開いている銀髪の女に気がつき、フェバリはニッコリと白い歯を見せる。 「うん。あの巻き髪おしゃべり女の鼻を折ってやったよ。でも、意外と強かったなぁ。思ったよりも手こずっちゃった」 意外と強かったとフェバリは言ったが。 サファイア·プラインドは、そんな言葉を吐けるような相手ではない。 あの巻き髪の金髪の女は炎の魔法を操り、さらにはレイピアを使った間合いの取り方に優れた剣士でもある。 若く傲慢ながらもプラインド家の令嬢の強さは王都で知れ渡っており、長距離からの魔法攻撃に近距離での戦闘も行えるため、非の打ち所がないタイプなのだ。 それを倒したのか? ビティーはそのことに驚きながらも、どうしてフェバリが彼女と戦ったのかを訊ねようとした。 「ど、どうし……」 しかし、彼女は訊けなかった。 それは明らかに自分のためだとわかっていたのもあって、わざわざ口に出して訊くことではないと思ったからだった。 「いや……ありがとう、フェバリ」 「うん? 別にお礼を言われるようなことはしてないよ。そんなことよりも入団試験はいつ始まるんだろうね~。こりゃ明日になっちゃうのかな?」 「本当だよね。ガートルード隊長は村で待ってるように言ったけど、いつ始まるのやら」 ビティーとフェバリは互いに笑みを交わし、それから食事を取ることにした。 ――その頃、村の側にある森では――。 隻眼の女――ガートルード·ブルパームが、馬車から用意していた積み荷を出していた。 彼女を手伝っているビアン兵団の団員たちは、何やら渋い顔をしながら彼女に従っている。 「ちょっと遅くなっちゃったね。でも、まあいっか。夜のほうが魔物の襲撃っぽいもんね」 「ガートルード隊長……」 団員の男がガートルードに声をかけた。 すると、女の団員も続いて彼女に向かって口を開く。 「こんなもの用意して、何か意味あるんですかね……?」 「大ありだよ。いいかい。この着ぐるみを着れば私たちの正体が隠せて、しかも魔物だと思って入団希望者が遠慮なく戦えるんだから」 ガートルードが用意したものは着ぐるみだった。 彼女はこれに変装して、団員たちと自分たちで入団希望者と戦い、その実力を見ると言う。 突然の魔物の襲撃に、入団希望者たちはどう対応するのか。 当然、戦える力を見るのもあるが、一般人である村人たちを放っておくのかどうかも試す試験だ。 こんな凝った試験をやるのは、ビアン兵団でもガートルードだけだった。 他の兵隊長は彼女ほど手の込んだ試験はしないのもあって、付き合わされている団員たちは辟易している。 いや、それはまだ呆れるほどではない。 団員たちがうんざりする理由は、着ぐるみで魔物に変装するというガートルードのアイデアにあった。 モフモフの可愛らしい動物の着ぐるみ。 これはガートルードの趣味なのかと、団員の誰もがため息をついてしまっている。 「あの、ガートルード隊長……ちょっといいですか」 「なんだい? 早く着ぐるみが着たくてしょうがないのかい? わかるよ~。可愛いもんね、これ」 「いえ、そうではなくて……。この着ぐるみを着ても、入団希望者たちは絶対に魔物だと勘違いしないと思うのですが……」 勇気を振り絞った団員の一人が本音を言った。 だが、ガートルードはその言葉を無視して着ぐるみに着替える。 気がつくと彼女は、顔以外は可愛い動物の姿になっていた。 「ほら、皆も早く着替えないと夜が明けちゃうよ」 リスの着ぐるみを着てオレンジを頬張る隻眼の女。 こんなデカいリスの魔物がいてたまるかと思いながら、団員たちも渋々着ぐるみに着替え始めた。 その行動は遅く、彼ら彼女らにやる気がないのが伝わってくる。 ガートルードはそんな団員たちを見て、満足そうにオレンジを平らげていく。 だが、このときガートルードたちは知らなかった。 まさか村に想像を超える脅威が近づいていることに。
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