07

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――陽が完全に沈んだ頃、村人たちは外で料理を作っていた。 どうやらガートルードから入団希望者たちの食事を用意するように頼まれていたようだ。 村に到着してからずっと緊張しっぱなしだった入団希望者たちも、さすがに今夜はもう試験はないだろうと、ありがたく料理をいただくことにする。 「うーん。美味しいね、このスープ」 「ちょっと、フェバリ。あなた、いくらなんでも食べ過ぎじゃない? 少しは遠慮ってものを……」 「えッ? でも美味しいんだもん。それに残すほうが失礼だよぉ」 入団希望者たちが大人しく料理を食べ始める中、フェバリだけは思いっきりがっついていた。 彼女は鍋ごと自分のテーブルに置き、恐ろしい勢いで食べていく。 先ほどサファイアと戦ったばかりだというのに。 よくそんな食欲があるなとビティーは開いた口が塞がらなくなる。 しかし、彼女はそんなフェバリに呆れながらも「こういう人間が大物になるのかな?」と、思わず笑ってしまっていた。 眠れるときに眠る。 食べられるときにしっかり食べる。 フェバリの心構えを少しは自分も見習わないといけない――と、あまり食べる気にならなかったビティーもスープを食べ始めていた。 他の入団希望者たちも村人らと笑顔で話をしたりと、力の抜けたゆっくりとした時間が流れていたのだが――。 「なんだこいつ!? 誰か! 誰か助けてくれ!」 そんな雰囲気を壊す声が響き渡った。 食事をしていた入団希望者たちは慌てて武器を手に取り、まさか入団試験が始まったのかと悲鳴の聞こえたほうへと走り出す。 もちろんビティーとフェバリもだ。 現場と思われるところへ到着すると、そこには倒れている村人の老人に無数の花が群がっていた。 それは普通の花ではなかった。 花の中心に口があって鋭い歯をのぞかせ、さらには根が足になって歩いている。 見たこともない花の魔物。 数えきれない未知の敵に怯み、入団希望者たちの誰もが動けなくなっていた。 「あなたたち! なに呆けているの!?」 そんな中でサファイアが花の魔物へと斬りかかり、老人を救う。 彼女の見事なレイピアによる刺突の連撃で、一瞬にして周囲にいた魔物は打ち倒された。 だが、花の魔物は村の外から次々と姿を現した。 当然サファイアは怯むことなく剣を振り、無数の魔物を押し返していった。 「ほう。結構ボロボロのはずなのにタフだねぇ、あの巻き髪おしゃべり女」 「感心してる場合じゃないよ、ビティー。わたしたちもサファイアに続かなきゃ!」 戦っているサファイアに続き、ビティーとフェバリも花の魔物へと斬りかかった。 幸いなことに花の魔物は一匹ずつでは大したことなく、ビティーの実力でも十分倒すことが可能だった(それでもサファイアやビティーが一撃で仕留めるところを、彼女は手こずっていたが)。 怯んでいた入団希望者たちもそれぞれ声を出し、三人に続いて魔物へと向かっていく。 数こそ多いが、皆で戦えばそれほど恐ろしい魔物ではない。 そう誰もが思っていたが。 花の魔物らの後ろにあった大木が、ゆっくりとビティーたちに近づいてきた。 「なにあの大きな木……顔がある……? みんな、あれも魔物だよ!」 ビティーが大木に気がついて声を上げた。 大木は無数の根をタコの足のように動かし、村の中に入ってくる。 花の魔物らがその大木を守るようにその周りに集まるのを見るに、どうやらこの魔物が指示を出しているようだった。 村に陣取った大木は、目の前に立つ入団希望者たちを見て雄たけびを上げた。 空気が震え、皆の足がすくむ。 大木の魔物の咆哮(ほうこう)が合図だったのか、花の魔物らが動き出した。 花の魔物らは目の前にいる入団希望者たちを避けて、村の奥へと侵入しようとする。 このままでは村人たちが殺される。 それは誰の目にも明らかだったが、先ほどの大木の雄たけびのせいで入団希望者たちは動けなくなっていた。 緊張が緩んだ途端の襲撃に、さらに彼ら彼女らにとっては初めての実戦だ。 村人を助けに行くべきか。 それとも指示を出している目の前の大木を倒すべきか。 入団希望者たちは、どう判断して動けばいいかわからずにいた。 「みんな聞いて! 村の人たちを助けるのを優先しよう!」 そんな状況の中、またもビティーが声を上げた。 彼女の声を聞いた入団希望者たちは、返事もせずに花の魔物らを追っていく。 それを確認したビティーは、剣を構え直すと、目の前に立つ大木へと歩を進めようとしていた。 「待ちなさい! あなたがあれに勝てるつもりなの!? 弱いくせにバカな真似しないで! あなたも村のほうへ行くのよ!」 ビティーを止めたのはサファイアだった。 サファイアはビティーの実力では、大木の魔物には敵わないと言い、彼女を押しのけて走り出す。 止められたビティーは、その通りだと思った。 たしかに自分は弱い。 だから皆が花の魔物を倒すまでの時間稼ぎをするつもりだったのだが、サファイアからするとそれも無理だと判断された。 「悔しがってる場合じゃない……。今はこの状況をどうにかしなきゃ!」 「立ち直り早いねぇ。じゃあ、代わりに無茶をやろうとしている巻き髪の手伝いはあたしがやるから、ビティーは村のほうへ行ってよ」 「ちょっとフェバリ!?」 歯を食いしばっていたビティーの肩を叩き、フェバリはサファイアの後を追いかけた。 そんな彼女の背中を見たビティーは、表情を歪めながらも村の奥へと駆けるのだった。
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