08

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追いついてきたフェバリを一目見ると、サファイアは唇を尖らせた。 そんな彼女の横顔を見て走るフェバリが、不可解そうに口を開く。 「なんか不満そうだね。こっちは手伝おうとしてるってのに」 「ふん。あなたの手伝いはなんて必要ないわ」 「いやいやいるでしょう。あの木の魔物はどう見たって強そうだし。たぶん巻き髪おしゃべり女じゃ勝てないよ」 「ちょっとその呼び方は止めなさいよ!」 サファイアは変なあだ名をつけられたと憤慨したが、すぐに冷静になって言い返す。 自分で敵わないなら、フェバリならば大木の魔物に勝てるのかと。 訊ねられたフェバリは答える。 「いや、無理じゃないかなぁ。今のあたし、さっきあんたと戦ったせいで体中が痛いし。普段の半分も力が出ないよ」 「おっほほほ! まあ、当然ですわね! 私と戦って無傷でいられるはずがないですもの!」 「勝ったのはあたしだけどね」 「ふぐぐッ!」 フェバリは顔をしかめるサファイアに向かって、現状は話し始めた。 あくびをしながらやる気のない声を出し、自分とサファイアの状態を伝える。 彼女の見立てでは、おそらくサファイアの胴体や手は打撲か内出血の状態。 本当なら立っているだけで辛いはずで、これから戦おうなんて無謀だと言う。 「あたしがやっといてなんだけど、別にこれは試験じゃなさそうだし、無理することないんじゃない?」 「私が出ないとあの女が出てるつもりだったでしょ……」 大木の魔物は目前。 サファイアはレイピアを構え、飛んでくる伸びる枝を避けながら言葉を続ける。 「そう……ビティー·ムーンアンダーは昔からそう……。弱いくせに……いつも無理ばかりするのよ!」 そして一閃。 サファイアの鋭い刺突が大木の魔物の顔に突き刺さり、魔物はその大きな体を大きく仰け反らせた。 しかし、それだけでは終わらない。 フェバリもサファイアに続き、木こりのように大剣を思いっきり振りかぶった。 切り落とすかの勢いで振られた大剣が大木の魔物に当たる。 だがダメージは受けているように見えるものの、激しく咆哮するだけだった。 「あたしも知ってるよ。ビティーは弱いけど、そういう人だって。……にしても、こりゃかなりヤバいねぇ。今のあたしらでこいつ倒せるかな……」 ――村人たちを守るために花の魔物を追ったビティーは、入団希望者らと共に戦っていた。 数こそ多かったが、なんとか一人の犠牲もなく花の魔物の撃退には成功。 しかし負傷者は多く、サファイアとフェバリの加勢に行けそうな者はいなかった。 ビティーを含めた入団希望者たちは、現在、村人らから手当てを受けている状態だった。 「よし……。じゃあ、わたしは二人の応援に行ってくるから! 皆はここをお願い!」 そんな状況で、ビティーは一匹残らず花の魔物がいなくなったことを確認すると、サファイアとフェバリの加勢に向かおうとした。 村人を含めて入団希望者たちの誰もが彼女を止めたが、ビティーは聞く耳を持たずに駆け出していく。 ビティーは思う。 正直、花の魔物程度に傷だらけにされるような自分では、二人の足を引っ張るかもしれない。 それでもやれることはある。 自分には微弱だが回復魔法が使える。 二人の補助くらいならば役に立てると、背中に聞こえる声を無視しながらひた走った。 戦いの場へとたどり着いたビティーは、冷や汗が止まらなかった。 それは全力疾走したからではない。 理由は目の前に見える光景――。 サファイアもフェバリも、すでに立っているのもやっとという様子だったからだ。 大木の魔物は勝ち誇ったように咆哮する。 その生い茂る葉を揺らし、上部から伸びる枝を振りながら嘲笑うかように動いていた。 「二人とも大丈夫!?」 「なッ!? どうしてあなたがここにいるのよ!?」 サファイアが現れたビティーに気を取られた瞬間、彼女は大木の魔物が伸ばした爪のような枝によって吹き飛ばされてしまった。 それからサファイアに駆け寄ろうとしたビティーに、大木の魔物の攻撃が始まる。 無数の鋭い枝が雨のように彼女に降り注いだ。 ビティーはこれを剣で受けるが、彼女の剣技ではいつまでも防ぎきれない。 「くッ!? このままじゃッ!?」 次第に傷が増えていく。 致命傷こそ避けているものの、すでにビティーは限界だった。 そのとき、横から分厚い刃が振られて、大木の魔物の枝を一掃した。 「ビティー……やっぱ来たねぇ」 「フェバリ!?」 フェバリは大剣を振って枝を吹き飛ばしたが、その場に片膝をついていた。 彼女に駆け寄ったフェバリは村人の無事を伝え、二人が大木の魔物を食い止めてくれたおかげで、犠牲者が一人もいないことを話した。 あとは目の前の大木だけだ。 しかし、頼りにしていたサファイアが倒れ、フェバリも限界がきているようだった。 ビティーはこうなったら玉砕覚悟で自分が行くしかないと決意する。 彼女が前へ出ようと歩を進めると、フェバリが声をかけてきた。 「ちょっと待ちなよ、ビティー。自分のやることを間違えちゃダメだって」
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