月のこども4

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月のこども4

 うう、無力だな、私って。  「外にまわるべき」の子、キョウくんが3年生でお兄ちゃんだったことと、「先生には従うべき」と受け止める性格であったこともあり、渋々ながら頷いてくれたので、なんとか喧嘩にはならずに済んだ。  だけど、きっとストレスに感じただろうし、「何でツーくんはいいの?」と頭が混乱したことと思う。  キョウくんは、私のところへやって来て、不満そうに眉をしかめ、仏頂面で言ったのだ。 「僕も、しょーがいしゃだったら良かった!」  その言葉はとても重たくて、思わず私は口をつぐんでしまった。  だって、「そんなことを言うものじゃないよ」も、「何てこと言うの」も、「そうだね」も、「違うんだよ」も、何一つ正解ではなくて、誰かにとっては胸を貫かれるような鋭い武器になってしまう。  けれど、キョウくんはまだ10歳にも満たない無垢な子供で、決して悪意や嫌悪感からそんなことを言ったわけではないのだ。  無知、でもないと思う。  彼は賢くて実直な子だ。  浅慮でもないし、場の雰囲気を読み、自分の取るべき行動を察することも出来るムードメーカーだ。  つまり、我慢が出来なくて、つい吐き出した「痛み」だったのだろう。  私は一応「先生」ではあるけれど、バイトだし、子供たちに対して何か指導をしたり、前に立って指示を出したりはしないので、本心を話しやすかったのかもしれない。  キョウくんに微笑みかけて、ポン、と頭に手のひらを乗せる。  伝えたいことは、沢山あるのに、そのどれもが無責任にしかならない。  なんて歯がゆいんだろう。  「イイコ。イイコだよ。ありがとう、キョウくん」  短い、このたった三文字の言葉に、全部の気持ちを込めて、私は彼の髪を撫でた。
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