月のこども5

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月のこども5

 そう、これでも、「些末なことだった」と言えるのは、「体操」よりも、「パズル」の授業で起きたことの方が、保護者の方に電話で謝罪をしなければならないような事柄だったからだ。  今回は、怪我をしたミイちゃんのお母さんが事情をわかってくれて、対応策をいくつか教えてくれた上に、こちらこそ申し訳ありませんでした、と何度も謝ってくれた。  ミイちゃんは、泣きながら送迎の車に乗って帰って行った。  怪我もしているし、お母さんは何があったのかと慌てて、哀しくて、もしかしたら激昂してしまうのではないかと不安だった。  何より怪我の方は、良くなるまで時間がかかったりしないだろうか、と心配だった。  けれど、そんなことにはならなかったので、通話を切ると、その場にいたスタッフ一同ホッと一安心をして、電話に向かって頭を下げたのだ。  ノリちゃんは、3年生の女の子だ。  元々、真面目に「先生」たちの話を聞くタイプの子ではなくて、好きな時に好きなように振る舞う。  機嫌が良くても、機嫌が悪くても、元気でも、疲れていても、誰かに向かって「しね!」「うざい!」「ばーか!」「きもい!」「さいてー!」と、すぐに大きな声で騒ぎだす。  決められた位置に座っていることもなかなか出来ず、立ち歩き、他の子にちょっかいを出す。  飽きて来るとエスカレートする為、ノリちゃん用にと様々なオモチャや本を用意して、歩き回れるように席を後ろにして、何かあれば私が廊下に連れ出せるようにいつも横に待機していた。
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