1章 第11話 街に着いたら美味しいものもの食べたい

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1章 第11話 街に着いたら美味しいものもの食べたい

1章 懐中時計 Montre de Poche  私は一ノ瀬茜。  荷車でシエラはいろいろ話してくれたが情報量が多すぎる。シエラは私を「3主の力」のひとり「時の加護者」アカネだというのだ。私たちは「レギューラの丘」への旅の身支度を整えるために、大正ロマンの街「ビーシリー」に到着した。 —大正ロマンの街 ビーシリー—  街は夕暮れ間際で大いに活気づいていた。石畳の道に並ぶ商店は軒先に台を置きたくさん商品を並べている。魚、野菜、雑貨などが並べられ、それはまるで古き良き日本の光景のようでもあった。  しかし夕暮れが進むにつれ街灯ランプが灯り始めると、西洋風の雰囲気に様変わりしていった。  「アカネ様、どうも先ほどからアカネ様の様子を見ていると少しその..僕の知っているアカネ様より英知というものが少くなったような気がするのですが..記憶喪失ですか? 」  シエラはオブラートに包んで『お馬鹿になった』と言いたかったのだろう。  「まぁ、似たようなものかな? 」  私はだいたい憶測がついた。にわかに信じられないことではあるが、シエラが言う『アカネ様』とはおそらく私のおばあちゃんのことだ。今の時点で話すと、ややこしいことになりそうだったので、当面は適当に話を合わせることにした。  「それでは、質問です。アカネ様、旅先で真っ先に行うことといったら何でしょう? 」  「う~んと..おいしいものを食べる? ..とか」  シエラが眉毛を八の字にしながら笑いをこらえている。  「ぷっ、ぷぷぷ。噓でしょ? アカネ様、真面目に言ってます? まるで10代の生娘のようなことを言うのですね」  ぷーっと自分でも頬が膨れるのがわかった。こんなに馬鹿にされるとは思わなかった。  「じ、じゃ、何だっていうのよ? 」  「宿ですよ、宿。まずは寝る場所を確保するのです。さ、行きますよ」  「わかってましたよっ! ちょっとふざけただけよっ! 」  「はい、はい。ぷぷぷぷ」  ビーシリーの大通りをしばらく歩くとシエラが声を大にして言った。  「見てください! ほらっ!ここならアカネ様の希望も叶いますよ。 下は料理屋、上は宿になってます。おいしいものもたくさん食べられますよ。 よかったですね!」  「シエラ! 私のこと馬鹿にしてるでしょ! 」  「してないですよ。嫌ですね。そんなにプンスカしないでくださいよ」  「プンスカなんかしてないから! 」  そういう私を見ながら目が笑っている。  「アカネ様、僕、今から2階の宿の店主のところに行ってきますから、下の料理屋で待っていてください」  「ね、ね、お金は? シエラ持ってるの? 」  『シシシ』といたずらっぽい笑みを浮かべると、皮の巾着を目の前で2,3度ふる。  「あいつらの宮殿から、迷惑料をいただいてますので..」  しかし困ったことになった。さすがに知らない場所、ひとりで食堂に入る勇気は持ち合わせていなかった。  (どうしようかな..入ろうかな.. でもシエラ、すぐ戻ってくるよね..)  店に入らずここに居たら、きっとシエラはこう言うに違いない。  『あれ? アカネ様、まだ入っていないんですか? もしかして僕を待っていたんですか? 』  そして絶対に目が笑っているに違いない。  『虎穴に入らざれば虎子を得ず』どこかの偉い人が言っていたね..  木のドアの取っ手を持って開け..開け..あれ? 開かない。ガッ! ガッ! と強めに押して引いてもこのドアが開かない。もしかして異世界だから何か魔法の言葉が必要?例えば超有名な『ひらけゴマ』みたいな?  ガラ ガラ ガラとスライドしながらドアが開くと、女性が顔をのぞかせた。  「いらっしゃいませ..? 」  なっ..引き戸っ!!  赤面しながら案内されたテーブルに座る。意外にも漂う香りは日本の料理屋と変わらない。さすがにお冷のサービスはないようだ。店内は宿屋の下ということもあり、旅の客が多い。  ガゴン! と乱暴に扉が開けられると2人の男が入ってきた。ひとりは眼鏡をかけた細目でいやらしい口ひげを生やしている。もうひとりは大きな体に服の上からでもその筋肉が見て取れる。  2人はカーキ色のシャツとズボンをはいている。同じ職場で働いている男たちのようだ。  大柄の男は似合わない1:9分けの髪をなでると下品なニヤケ面を浮かべて、他の客のテーブルの前で立ち止まった。  「へへへ。おお、こりゃうまそうだね~。どれどれ」  そう言うとテーブル上の料理に汚い指を突っ込む。そして摘まんだ料理を口に運んだ。  「ゲッ、酸っぱいな。俺の好みじゃねー! 」  男は料理の皿を手で払いのけた。当然、皿は床に落ち料理が辺りに散乱した。  「悪いな。わざとじゃないんだ」  (うわ~..喧嘩になるかなぁ..)  料理を落とされた客の顔を見てみると、尻尾を丸めて卑屈な笑みを浮かべていた。
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