1章 第13話 殺意と笑顔

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1章 第13話 殺意と笑顔

1章 懐中時計 Montre de Poche  私は「時の加護者」アカネ。  なんとも悪い衛兵だ。奴ら権力を傘にやりたい放題だ。でも、お約束どおり、奴ら私に目を付けた。そりゃ目立つよね。だって私の姿は学校帰りの女子高生なのだから.. —ビーシリー 料理屋—  ジキの悪行に怒った若い店員の声で店は静まり返った。ジキは私の手を放すと下品に口元をゆるませながら、若い店員の方へ振り返った。  「ほほ~。これは珍しいぜ。神がくださったこの素晴らしい世界に対して、お前は不満があるってことだな」  ジキが腰の警棒を握りしめると、厨房の方から女性店員が割って入った。  『どうもすいません。ちゃんと息子に言いきかせますから』  と言いながら満面の明るい笑顔を浮かべている。その台詞と表情の不釣り合いに気持ちの悪いものを感じた。  「そうだなっ! ばばぁ! 」  ジキが足の裏で女性の顔面を蹴り飛ばした。それでも身を起こした女性は鼻血を拭わず  『はい。言い聞かせます。私が言い聞かせます』  と変わらない笑顔で男に訴えていた。  『笑顔』の為に妙な光景だったが、私は涙があふれてきた。  「母さん、なんで卑屈に笑うんだ..こんな奴、俺がやっ—」  パンッ!  私は若い店員に詰め寄り頬を思い切りひっぱたき、静かな口調で言った。  「あなた、今のお母さんの気持ちがわからないなら死んだほうがいい」  「おお~。変な服装の姉ちゃんも混ざって楽しくなってきたな。だがな、その小僧のたわごとしっかり聞いたぜ。その小僧は少し折檻しなきゃいけないな。それが終わったら次にお姉ちゃん、その怪しい服を脱いで身体検査だねぇ。なぁ、ルキ、それでいいよな」  「ははは。ジキよ、職務上の任意検査なんだから、相手に一応同意してもらう必要があるな」  「では、よく聞けよ。これは任意の検査だ。不服なら拒否もできるがどうする? なぁ、姉ちゃん」  (これはまずいことになったなぁ..とか言ってる場合じゃない。ほら、今よ、すぐに来なさい。シエラちゃん! 出番よ! )  「いたた。痛いって!! 」  再びジキが腕を引っ張り上げ、その太く汚い指がやらしく襟元に差し込まれた。  —ガバンッ!  勢いよく扉が開いた。  「はぁ~い。そこまでよ。はいはい。お終い。解散ね。アカネ様、おまたせ」  「もう! 遅いじゃない! 」  「げへへ。もう一匹教育し甲斐のあるのが入ってきたなぁ。これは今晩は検査続きで眠れないなぁ」  「殺すぞ」  それは私が今まで知らないものだった。まるでそこから指一本でも動かせば、鋭い虎の牙と爪が頭を吹き飛ばしてしまいそうな、芯から身がすくむ恐怖だ。  ジキを見ると..なんと失禁している。  「..あわわわ」  「どうした? ジキ」  「ひっ、こ、殺される。殺さないで~! 」  シエラが出口を指さすと、ジキは顔を恐怖で歪ませながら一目散に逃げていった。  「ジキ!! お、おまえらこの街を出られると思うなよ」  そう言い残すとルキはジキを追いかけ店を出た。  「ずいぶん盛り上がっていたようですね。アカネ様」  「シエラ! そこに居たでしょ! それもかなり前から! 」  「え~、そんなことないですよ。僕は2階で宿を取ってましたよ」  「ふん。嘘言っても無駄。私、シエラの気配を感じ取れるようになったんだから」  「あたたた。もうですか? ずいぶんと早いですね。さすがアカネ様」  「でも、これって、どういうことなの? 」  「僕はアカネ様の分身ですからね。双子よりもお互いを感じ取れるってことです」  「そうなんだ..じゃない! なら早く来なさいよ! 」  「へへへへ」  シエラはいたずらっ娘ぽく笑っていた。この屈託なく笑う娘が、さっきの恐怖を放つ者と同一人物っていうのが..まったくヤバすぎる。
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