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1章 第16話 髪長き女
1章 懐中時計 Montre de Poche
私は「時の加護者」アカネ。
私たちがビーシリーの街でお買い物をしている時、元の民の館では「時の加護者」アカネとシエラが現れた報告が、首領ヨミの耳に届いていたのだ。
—元の民の館—
髪長き女は窓から遠くを見つめ、報告を聞いていた。
「そうか、ついにシエラが現れたか..それで、ガゼは片足を無くしたのだな」
「はい、あいつはもう役には立ちません。さんざん威張ってたくせに、情けない奴ですよ」
「やめよ、ミゼ。私は私の為に命を懸けて闘ったものを決して蔑むことはしない。命を懸けて闘った者はな.. 」
「す、すんません」
雲から漏れた陽の光が降り注ぎ小鳥のさえずりが聞こえる。そんな空を見上げながら女は深く息をする。
「 ..ミゼは腕を負傷、ガゼは再起不能の負傷を負った。ロウゼに護衛されながら逃げ帰ったお前は、私の為に何をしてくれたのだ、グラムよ? ああ、たしか神官グラムだったか」
大きな窓から風が吹き込み女の髪がたなびいている。
「わ、私は.. こ、今度あいつらを見つけたら—」
陽の光が雲の中に埋もれると小鳥の飛び立つ音が聞こえ、あとは静寂が空気を支配した。
「ああ、そういえば、お前はトパーズのシエラを見てわめいて逃げ回ったと聞いたな。そのお前が今度? 今度だと? ..私はな、嘘が嫌いなのだよ、グラム 」
3つ歩を進めるとその長く白い指がグラムの頭を優しく撫でる。何度も、何度も..すると撫でた場所から髪は白くなり、するりと床に落ちていく。
「 ..あ.. あわわ.. 」
恐怖におののくグラムの声も静寂は飲み込んでいく。撫でまわすその白い手が ひとつ仕事を終えたようにピタリととまり、その指が少しヨレた胸元をスッと直す。
「捨てておけ」
ミゼの方へ振り向いたグラムは小声で何かをつぶやいている。そのつぶやきがよだれを泡立て床にぽとり、ぽとりと落ちながら糸を引く。
齢(よわい)90を過ぎた男は、かつてグラムと名乗っていた。そのことすら今は忘れてしまっているのであろう。
「で、ロウゼ、次はおまえが行ってくれるのか? 」
「はっ、兄ガゼの失態は私が命に代えてもぬぐってみせます」
ロウゼは片膝をつき平伏した姿勢を保った。
「ロウゼ、お前ひとりで大丈夫かよ。このミゼが付いて行ってやろうか? 」
「余計なお世話だ。貴様は床の雑巾がけでもしていろ」
「なんだと! 殺すぞ! 」
「小鳥の声が聞こえぬな.. ミゼよ」
髪長き女がそう言うと、ミゼは床に顔を擦り付けるほどひれ伏した。
「期待しているぞ」
ミゼの耳元でそう言うと髪長き女ヨミは襖を開き奥の間へ去って行った。顔を上げたミゼは悦に浸るような歪んだ笑みを浮かべていた。
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