14人が本棚に入れています
本棚に追加
1章 第20話 真天珈の調理人
1章 懐中時計 Montre de Poche
私は「時の加護者」アカネ。
「運命の祠」へ出発前にシエラに稽古をつけてもらった私。2時間の修行を終えて休憩をとると、シエラから恐ろしい話を聞かされる。私が2時間と思っていた時間は300日だった。昼も晩も関係なく私はただひたすら修行をしていた。私の蹴りは空間を震わせた。
—レギューラの丘—
一度、時の空間を出てみると丘の上には食材と調理道具、それとフカフカのソファーが置かれていた。
「シエラちゃん、ナイス注文! ああ、このフカフカたまらないわ。ちょっと一眠りしてもいいかしら? 」
「それどころじゃありません、アカネ様。その食材の陰に人が死んでます」
そんな眠気も吹っ飛ぶことをいうシエラ。のぞき込むと..
「なんだ。アコウじゃない」
「アコウとは誰でしたっけ? 」
シエラは本気で覚えていないようだ。腕を組んで一生懸命思い出そうとしていた。
「ほら、料理屋の息子よ」
「ああ! で、この者は何をしているのでしょう」
私は一目見てだいたいわかった。
「 ..本人に聞いてみるのが早いよ。 ほら、起きなさいよっ! 」
ドガっと腿を蹴とばす。
『ギャッ!! 』と声を上げるとアコウはあまりの痛さの為うずくまった。
「あの、アカネ様、少し乱暴になりましたか? ダメですよ。アカネ様の蹴りは今すごーく痛いのですから」
「あ、そうね。 ちょっと加減が足りなかったかも.. 」
「 ..っ。何だよ。いきなり! ってーな! 」
アコウは涙目。
「いきなりはそっちでしょ。 女の子の家に突然押しかけると嫌われるとか、あんた知らないの? 」
「家? 家らしいものなんかないじゃんか。 俺はここに居ればそのうちお前らが現れるって聞いたから待ってただけだよ」
「そっ、で、 用件は? まっ、聞かなくてもだいたいわかるけど.. あなた、家出したんでしょ? 」
「な、なんで知ってるんだ? 」
「ふんっ、だいたいパターンじゃない。おおかた、『強くなりたいんだ』とか言って飛び出したんじゃないの? 」
「 ..まぁ、その通りだけど、手紙書いて出て来た」
「ほらね 」
「では、アカネ様、追い返しましょうか? 」
「いいよ。付いて来たいなら、一緒に来てもらったら? 」
「いいの? 」
アコウはキョトンと意外そうな顔をしていた。
「いいよ」
「 ..なるほどっ! この者を調理人として同行させるんですね。さすがアカネ様。食べ物のことになると意地汚いだけありますね 」
シエラが手を打った。
「ちょっと、どこが意地汚いのよっ! でも確かに丁度いいわね 」
こうして料理屋の息子アコウは調理人として旅に同行することになった。
食材を「時の空間」に運び込むと、さっそく喫茶店「真天珈」にて料理を作ってもらうことにした。
この喫茶店「真天珈」にアコウが入った時、私は大変なことに気が付いた。髪型が違っていたから気が付かなかったが、このアコウは喫茶店「真天珈」のウエイターと似た顔をしていた。そう、あの杏美ちゃんが惚れているウエイターだ。
最初のコメントを投稿しよう!