1章 第22話 闘いの合図

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1章 第22話 闘いの合図

1章 懐中時計 Montre de Poche 私は「時の加護者」アカネ。 圧縮時空間での追加修行を終え、就寝の時間。私の希望で「時の空間」からでて野宿することにした。だが、月明かりの夜、私とシエラはこちらに向かってくる3人の気配に気が付く。 — ウェイト国 レギューラの丘 — 見渡しの良いレギューラの丘。月に照らされながら迫る者たちの影があった。 「どうやら、敵のようですね」 「こんな暗いのに見えるの? 」 「はい。見覚えがある顔が3人います。2人はビーシリーの料理屋で絡んできた衛兵です。そしてもう一人は.. 神官グラムの宮殿にいた者です」 神官グラムの宮殿にいた者といえば、ガゼ、ロウゼ、ミゼ、そしてグラム。ガゼはシエラと闘い重傷、グラムは怯えていた。すると、ロウゼかミゼのどちらかだ。 ザザッと3体のシューが止まるとそれぞれの背中から男が降りてきた。 「音は立てないように気を付けていたが、どうやらとっくに気がついていたようだな。今日は月が明るすぎたな」 雲に隠れた月が再び3人の顔を照らす。ロウゼと衛兵ルキとジキだった。 「俺の兄ガゼがそちらの編み髪のお嬢さんに世話になったようだな」 ロウゼの鋭い眼光はシエラに向けられていた。 「このクソ娘、こ、今度はな、グレイブのロウゼ様が、お、お前を討伐してくれるぞ」 シエラの殺気に声を上げて逃げたジキがロウゼの背中越しに言い放つ。 「この前は一目散で逃げたくせによく言うね」 シエラは既に戦闘態勢に入っていた。 「ロウゼ様、ジキと私は、あちらの妙ちくりんな服を着ていた娘をいただきます」 「妙ちくりんで悪かったわね。あれは私の学校の制服で評判いいんだから! 」 「なんだよ。騒がしいな」 そう言いながらアコウが寝ぼけ眼で荷車から降りてきた。 「なんだ、あの料理屋で反抗的な態度をとったガキも一緒とは好都合だな」 ジキが下品な笑みを浮かべながら言った。そのいやらしい顔を確認したアコウの目が血走る。 「こ、この野郎。俺の母さんを足蹴にしやがったクソ野郎じゃねーか。てめーの顔は忘れてねーぞ! 」 「ほう、面白くなったな。これで三者三様、闘う理由が出来たようだな。どうだ、俺も多少闘いを楽しみたい。順番に闘っていかないか? 」 「それってアコウとジキ、アカネ様とルキ、僕とお前が順番に闘うってこと? 」 「そうだ。シエラ、お前は俺と闘うのだ」 「余裕ぶっこいてるけど、これって闘いになるのかな? 僕がお前をボロ雑巾にしたところで、そっちの2人は怯えて逃げるんじゃないか? 」 「そうかもな.. だから、闘うのは俺からじゃない。まずはジキ、次にルキ、そして俺とお前さんだ」 「 ..お前、何を考えてる? 」 「ごちゃごちゃいいだろ! その小僧のせいでこんなことになったんだ。このジキ様がその原因となった悪の元凶を退治してやるぜ」 その言葉にアコウは野獣のような気配を放っていた。 「よし、じゃあ、合図はこの石が地に落ちた時としよう」 「ちょっと待って!! 」 「なんだ? 妙ちくりんなお嬢さん、意義があるのかい? 」 「当り前じゃない! ちょっとあんた達待っていなさいよ!! それに私は妙ちくりんじゃないからね! 」 ロウゼとシエラで勝手に話を進めて冗談じゃない! 「ちょっと! シエラ! 私はともかく、アコウが闘えるわけないじゃない。強さ求めて合流して1日しか経ってないのに、あんな怪力ゴリラ男に勝てるわけないでしょ! 殺されちゃうよ」 「アカネ様、闘いってそういうもんでしょ? 違いますか? それにアコウはもう怪力だけの男には負けませんよ」 「何を根拠に? 」 「まっ、見ててください。すぐに証明されますから」 シエラの言葉の迫力には何か裏付けがあるようだった。 「話はついたかい? 始めるぞ」 私が頷くとロウゼは何とサッカーボールくらいもある石を天高く投げた。その石は星夜の中に消えていく。 「高い! 」 シエラが叫ぶ。しばらくするとその質量に相対する風切り音とともに地面に落下した。 —ダンッ! 何かが地面を蹴る音がするとジキが吹っ飛んでいく。合図の石に気を取られて何も見ることが出来なかった。そこには拳を握りしめたアコウが立っていた。 「ねっ、ねっ、アカネ様! 僕の言ったとおりでしょ」 「ごめん、見てなかった.. いったい何があったの? 」 シエラが露骨に信じられないって顔をしている。 「単純なことです。石が落ちた瞬間にアコウが思い切り地面を蹴って加速し、ジキの腹に一発いれただけです。ジキの内臓はもうズタボロです」 ソックスがアコウに近づき鼻をフカフカさせている。 「ああ、ありがとう、ソックス」 そうだ。私が修行している間、暇を持て余していたアコウはラインやソックスと力相撲や瞬発ゲームをやっていた。つまり私の修業の時間と同じ時間をあのラインとソックス相手に力と速さの修業していたのだ。それに私の仲間になったことで特別な力を手に入れているのかもしれない? もしかしてあの異常に美味しい料理も能力の開花かしら?
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