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2章 第24話 オレブランの耳
2章 運命の輪 roue de la Fortune
私は「時の加護者」アカネ。
ビーシリーで旅の必需品や服を準備し、レギューラの丘ではシエラに修行を付けてもらった。これで準備万端。私たちはアコウという仲間加えて王国フェルナンの「運命の祠」を目指す旅へ出発する。
— 王国フェルナン オレブランの森 —
「アカネ様、お気を付けください。もうすぐ未開の針葉樹の森の中に入ります」
辺り一面地吹雪で何も見えない中でも、ラインとソックス、そしてシエラはしっかりと場所を把握している。GPSのないこの世界にこれほど頼もしい存在はない。
私たちは「運命の加護者」シャーレに会うため、王国フェルナンに存在する『運命の祠』を目指す。しかしこの王国フェルナンがまさか雪に覆われた国であるとは.. 私は寒いのが嫌いなの!
—と、いう事でロウゼ達との対決が終わった後、私たちは出発前にもう一度、ビーシリーの街へ行き防寒着と食材を買いあさった。
— ビーシリーの街 —
「シエラちゃん、どれにしようか? これとか似合いそうじゃない? 」
それにしてもお洒落で可愛い防寒着がそろっていたのは意外だった。正直、もっと実用性だけの地味な防寒着だけかと思っていたのだ。
「アカネ様、僕はそんなのいらないですよ」
「ダメだよ。 寒いよ。極寒だよ。そんな露出の多い布切れのような服じゃ耐えられないよ? 」
「う~ん。今一つわかっていないですね? 僕らはトパーズなんですよ。要は加護者の力から生まれたバイタル生命体なんです」
「 ..そうなんだ。よくわからないけど、この帽子かわいいよ♪ 」
—そういうわけで、フェルナン国の森の中、私とシエラはビーシリーで購入したおそろいのモフモフニットキャップ、大き目のボアコートを身にまとっている。
なんとも優秀なのは永久蝶(とこしえちょう)が一生を終えるときに包まれる繭の糸から作られたこのレギンが信じられないほど温かい。足を使うカポエイラには足元が身軽でもってこいのアイテムだ。
そうそう、家出をしてきたアコウはビーシリーに帰ることを拒んだため、代わりに適当な服を選んで与えた。
『俺も2人みたいにお洒落なのがよかった。なんかジジくさいラクダみたいな服だ』
と不服を言っていたが、そんなの知るもんか!
吹き続ける風に粉雪が舞う地吹雪がおさまり凍り付いたような地面が見えるようになったのは針葉樹の森に入ってからだった。
針葉樹はどれもこれも同じ景色を作るため距離と方向がつかみづらいが、それでも地面が見えるだけでも楽に感じる。
森の中心部に差し掛かると少しだけ光が差し込んで明るくなった。その地に何かがうずくまっているのが見えた。人かな? それもまだ幼い子供のようだ。
しかしソックスとラインの身体に緊張が走ったのを感じた。私が地面に降り立つとソックスが心配そうに顔を寄せてくる。
「大丈夫だよ。気を付けるから」
ゆっくりとうずくまる子供に近づき声を掛けようとした瞬間、子供の目が見開き、獣のような鋭い牙と爪で襲い掛かってきた。
それを予測していたかのように間髪入れずにシエラの脚が子供を蹴り飛ばした。
「ちょっとシエラ! いくら何でもあんなに思い切り蹴とばしたら死んじゃうよ! 」
「いいえ、インパクトの瞬間に攻撃をかわし、同時に僕の脚を傷つけました」
シエラの脚をみるとガゼとの闘いでも無傷だった脛にしっかりと爪痕を残していた。そして蹴とばした子供の姿がない。
「逃げたの? 」
辺りにパキパキと小枝が折れる音がする。
「いいえ、まだです! 仲間もいます。アカネ様、少し下がって」
その瞬間、三方向から奇声を上げながら子供たちが飛びかかってきた。一撃目を外した子供は地に足をつけると身をひるがえし2撃、3撃と攻撃する。
3匹のコンビネーションは複雑かつ正確に急所を突いてくる。シエラはしばらく腕や頬を傷つけられながらも動じなかった。
やがてシエラが踵による連続攻撃『逆風嵐脚』がうなりをあげる。鋭く連続する踵回し蹴りは衝撃波を作り木々に積もる雪を全てはじき飛ばした。
辺り一面に舞い上がった雪モヤが晴れていくと、蹴り飛ばされた子供たちは息絶えていた。
「なんで!? 」
責めるつもりはなかった。しかし命を奪ったシエラについ言葉がでてしまった。
「アカネ様、よく見てください。この子たちを.. 」
それは人の子供に猫のような耳が付いていた。いわゆるケモ耳だ。手にも猫のような鋭い爪が付いていた。
「この子たちは獣人? 」
「はい。この国ではオレブランと呼ばれています」
「もう死んでしまったんだよね.. 」
「 ..アカネ様、こんなモノはいなかったのです、もともとこの世界には.. 」
「どういうこと? 」
「オレブランが現れたのはここ数十年の間です。そして気に病むことはないです。このオレブランには魂がありません。死とは違います」
「 ..私には魂が有るとか無いとかはわからない。それでもやっぱりこの光景は悲しいよ」
子供を抱き寄せるとまだぬくもりが伝わってくる。このぬくもりも私の涙のようにすぐに冷たくなってしまうのだろう..
「アカネ様.. 埋葬いたしますか? 」
「うん.. 」
掘ることもままならないほどに固い大地だ。それでもシエラが足を振るうと大きな破裂音とともに地面が大きくえぐれた。まだ温かいこの体をこんなに冷たい大地に埋めるなんて..
せめて花の一凛でも手向けたかったが、風が吹くと埋葬した地に雪が舞うだけだった。
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