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2章 第25話 アリアの町に着いた
2章 運命の輪 roue de la Fortune
私は「時の加護者」アカネ。
ビーシリーでしっかりと防寒着を用意した私たちは極寒の国フェルナンへ入国する。すると森の途中で耳と尻尾のある子供に遭遇する。3人の子供は私たちを殺す気で攻撃して来た。シエラはトパーズとして私を守る使命を果たした。
— フェルナン国 オレブランの森 —
襲ってきた子供のオレブランの埋葬をした後、私たちは再び歩みを進めた。それでもやっぱりオレブランのことが頭から離れずシエラに質問を続けた。
「あの子たち、進化か何かなのかな? 」
「そういうのじゃないと思います。十数年くらいで獣が人間のようになるなんて普通の進化じゃあり得ない。そもそも、あいつらは生物ではありませんよ」
「でも服着てたり、仲間と一緒に攻撃してきたよ。それって生きてるって事じゃないの? 」
「 ..よくはわからないけど、きっと本能や習慣で動いているだけですよ。例えば朝起きておもむろにカーテン開けますよね。これってカーテンを開けるのが目的じゃなくて外の明かりを入れようとして無意識にカーテンを開く。または料理を食べようとするとき無意識に目の前のさじを手に取る。そういう本能に対する習慣なのだと思います 」
「どこかに家とか群れとかあるの? 」
「ないです。彼らは基本、根無し草です。しかし数年前からこの森に数が増えたとはいわれてます。アカネ様は、家族の存在を気にしているみたいですが、オレブランには子供しかいないのですよ」
「え?じゃ、子供がひとりで彷徨ってるってこと? ..何か悲しいね」
「前にさ、ビーシリーの街でもオレブランを飼おうとした金持ちがいてさ、餌でなつけようとしたけど、奴らは食欲というのがなくて、結局、金持ちは片耳を噛みちぎられたよ。奴らは動物の子供のような愛らしさがあるんだよね」
アコウが町でのオレブランの扱いを話してくれた。
「その男は自業自得よ。人が人を飼おうなんてさ!私なら両耳噛みちぎってやるんだから! 」
「ははは。アカネ様ならやりかねないね」
***
辺りが薄暗くなると森が静寂に包まれ始めた、遠くの方でかすかに太鼓の音や人々の掛け声が聞こえて来た。
「村かな? 」
「それだったら『アリアの町』だよ。ちょうどいい。今日はそこで宿を取ろう。
そう言うとアコウはなにやらソワソワし始めた。
「何? どうしたの、アコウ? 」
「あ、あのさ、ちょっと俺、離脱していいかな? ちょっとお腹の調子がどうも.. 」
「もうすぐ町だよ? 我慢できないの? 」
「も、申し訳ない.. 」
「放っておきましょ、アカネ様。ラインも一緒だし大丈夫でしょ。先に行ってるよ」
「お、おお!すぐ追いつく」
アコウは慌てた様子でズボンの紐を解きながら木陰の中に身を隠した。
『さすがアコウは旅人が利用することが多い料理屋の長男だけのことはある。近辺の情報に詳しい』と感心していたのに、これはプラマイ0になった。
アコウの言う通り、夜の森は危険だ。何より寒すぎる。私たちは太鼓の音をたよりに町へ進んでいった。
やがて、大きな大木を寄せ集めた壁が見えてきた。壁伝いにまわり込むと町への門が現れ、そこには衛兵が立っていた。
「シエラ、衛兵さんがいるけど私たち捕まったりしないよね? 」
「僕たち悪いことしてませんよ、アカネ様。心配しなくても王国フェルナンは開かれた国です。大丈夫ですよ」
シエラはそう言うけどやっぱりビーシリーの衛兵ルキやジキの件や、さっきのオレブランのことといい、とても心配だった。私は恐る恐る衛兵に声をかけた。
「あの~.. こんばんは」
「やぁ、こんばんは!」
「あの祭りですか? ..中に入ってみてもいいですか? 」
「君たち見ない顔だね。少しだけ質問させてもらっていいかな。何処から来たんだい? 」
衛兵さんの物腰は柔らかいがやっぱり職務質問が始まった。
「私たちはウェイト国のビーシリーから来ました」
「生まれもビーシリー? 」
困った。私の生まれはTokyoだ。シエラに至っては大地とでも言えばいいのか..
「君たちの身元を証明するようなものがあると助かるのだけどな。 悪いが、今、素性が明らかでないものを町に入れるわけにはいかないんだ。それに俺はビーシリー出身だが君たちを見たことないしな」
「そんな固い事言わないで。ねぇ、入れてよ。ねぇ..」
「そんな色仕掛けしても、だめだ! 」
意外にもシエラが私よりほんの少しだけある胸元を強調させて甘えた声を出していた。しかし残念なのは、私やシエラじゃ大人の色気がちょっと足りないようだ。衛兵はプイっとそっぽを向いてしまった。
「ごめん、ごめん、遅れた。雪でお尻ふくものじゃないね。もう冷たくって震えあがったよ」
「馬鹿じゃない!何言ってるのよ。こっちはそれどころじゃないんだから! 」
アコウが間抜けなこと言って戻って来た。
「ん? お前は料理屋のアコウじゃないか」
「ああ、マジムさん、お久しぶりです」
「アコウ、こっちの娘たちはお前の連れか? 」
「ははは。連れですよ。『あなたと離れたくないの』って付いてきちゃってさ。それとこっちは俺の護衛ね」
見栄を張ったのか、機転を利かせたのか良くわからないけど、今はナイスな嘘だ。
「なっ! お前の護衛だと? 僕が護衛するのはア〇△%モゴモゴモゴ」
慌ててシエラの口をふさいだ。
「そうか、そうか。アコウが来たなら丁度いい。大歓迎だ。実は今晩はこの『アリアの町』の感謝祭だ。お前、ちょっと鍋の味付けをしてくれないか? この大切な祭りに、料理人がいないのだよ」
「ああ、いいよ。この辺の味付けなら知ってるし」
私たちは何とか『アリアの町』に入ることが出来た。これで今晩は安心して過ごせる。「運命の祠」への旅はまた明日に再開だ。
ところで、さっきの嘘は、ついつい見栄を張ってしまったらしい。後にアコウの頭にはタンコブがつくられた。
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