2章 第29話 失踪する料理人

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2章 第29話 失踪する料理人

2章 運命の輪 roue de la Fortune 私は「時の加護者」アカネ。 昨晩のアリアの町の感謝祭は大いに盛り上がりをみせた。調子に乗って酔いつぶれたアコウを連れて、私とシエラは、衛兵のマジムさんのご好意に甘えて衛兵用の宿舎に泊まらせてもらった。 —アリアの町 衛兵の宿舎— 「おはようございます。マジムさん」 「ああ、おはよう、アカネちゃん、シエラちゃん」 「アコウはどこですか? 」 「ああ、彼なら散歩に行ってるみたいだ。びっくりだ。普通、あんな酒をあれだけ飲んだら翌日もほぼ起き上がれないのに、彼は頭痛すら起こさないばかりか、まだ暗いうちから散歩にでかけたよ」 やはりアコウの身体には何かの恩恵による変化があるのかもしれない。 「ところで君たちは旅を急いでいるのかな? 」 「はい。私たちはフィンの渓谷に行こうと思っているんです」 「フィンの渓谷? なんだってあんな何もないところへいくの? 」 「ああ.. はは.. ちょっと観光に.. 」 「観光に? あんなところに? 」 「あ、アカネさんは渓谷萌えなんですよ」 「そう、そう、私、あの川沿いにそびえる岩肌をみると胸キュンになるんです」 「川なんてないのに? 」 「はは.. 想像もひとつの楽しみで.. 」 「まぁ、いいけど、もし急いでいなければ王都フェルナンに寄ってみないか? 今日は王国ギプスとの料理対決があるんだ。実は昨日この町の料理人がいなかったのも、その大会に駆り出された為なんだ。きっとめったに食べられないような料理を食べることが出来るぞ」 「あの、せっかくですが.. 」 「いきましょう! 」 「ちょっと、シエラ! 私たちは(ほこら)に.. 」 「これも社会勉強ですよ、アカネさん」 はっきり言って昨日の料理ですでに食傷気味だが、シエラは痛いところをついてくる。確かにこの世界の事を何も知らない私には城下町である王都を見ておくのは良い勉強だ。 「じゃあ、ちょっとの間だけなら」 「ヤッタ!! 」 このシエラの喜びよう。 一方、こちらでも『よかった』と胸をなでおろすマジムさんの声が聞こえた。 *** —その頃、王都フェルナン— 王宮の広場には特別厨房が作られていた。早朝とは言え、両国の料理人は夕刻5:00の料理対決に備え下準備で慌ただしい。料理長タニシ、サリカ、ピルクの3人がフェルナンの代表料理人.. のはずだった。 「おい、サリカ! 料理長のタニシはどうした? どうしておらぬ!? 」 「これはボルド外務大臣、私にはわかりませぬ」 「わからないだと!? ここ数カ月、料理人のケガや失踪が相次いで、その上、当日に料理長タニシがおらぬとはどういうことだ! 」 「さぁ、大きな声を上げられても、わからないことはわかりません。しかし、ご安心ください。料理の内容はこのサリカが把握しております。何なら私ひとりでも大丈夫です」 「お前の天才的な腕前は知っているが.. ええい! アリア料理人のピルクと協力してなんとしても王国ギプスの料理に勝つのだぞ。わかったか! 」 「はい。承知いたしました。素晴らしい料理をお目にかけましょう。クククク」
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