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2章 第30話 フェルナンの王女
2章 運命の輪 roue de la Fortune
マジムさんにうまい事乗せられた感はあったけど、私(アカネ)とシエラとアコウは王都フェルナンで行われる郷土料理対決(王国フェルナンVS王国ギプス)を見学することにした。そして、今、王都フェルナンの城壁の前にいる。
さすがに王都フェルナンの城壁は「アリアの町」の木造防壁とは桁違いだ。見上げると首は斜め45度以上だ。まわり込むと王都への入口の扉が見えて来た。その扉の両側には女神の巨像が2つ彫られている。
「久しぶりに見るなぁ.. でもいつ見ても誇張していて笑える」
シエラが昔の友に会った懐かしの顔をしている。
「この石像って誰か知ってるの? 」
「はい、これは『運命の加護者』シャーレ様とトパーズのクローズです」
「なかなか綺麗な人だね。こっちの人は可愛らしいって感じ」
「まぁ、この時のシャーレ様は美しかったですよ。でも..ププ..クローズはこんなじゃないなぁ。アコウ、クローズに出会ってもナンパしようと思うなよ。僕みたいにやさしくないから」
クローズの像の前でだらしなく鼻の下を伸ばすアコウに忠告する。
「でも、前にシエラから聞いた話だと、王国って加護者よりも王家を一番に敬う国なんでしょ? それなのに国の玄関に加護者の石像つくるなんて意外だわ」
「確かに、そういう意味ではこの王国フェルナンは特別ですね。ここ王国フェルナンは『運命の祠』がある地なのです。だから、王家と加護者にまつわる御伽噺も数多くあって、信仰心も強いんですよ」
扉に近づくと門番をする衛兵2人が勢いよく走ってきた。
「わわっ.. 追い払われるんじゃない? 」
『お待ちしておりました。アカネ殿とご一行様ですね。さぁ、中へお入りください』
この丁重なお迎えは意外だった。というか、私たちが来ることは事前の決定事項のようだった。やはりマジムさんはそれに一枚かんでいたようだ。
王都内に入ると、何を差し置いても『まずは一刻も早く王宮の広場へ』と案内された。
「ねぇ、なんだろうね? 料理対決って夕刻からでしょ? 」
「アカネ様、もしかしたら試食させてもらえるのかも! 早く行きましょう」
シエラが私の手をグイグイとひっぱる。
「じゃ、俺はラインとソックスを宿に置いて来るよ」
ソックスはアコウの胸にフカフカと鼻をつけて甘えている。
[ え? 本屋はどこか? 俺も知らないよ.. ][ フコココ.. ]
アコウとラインとソックスの仲の良さは見ていて心が和む。
王都フェルナンはさすが大きい町だ。この外門から伸びる大きな通り、そして一直線上に見える王宮は堂々としていて、この国の豊かさを象徴しているようだ。
大通りの両脇には様々な商店が立ち並び、そこで暮らす人々の顔は生き生きとしていた。
「こんな北の寒い街なのに凄く良い町みたいだね」
「そうですね.. でも少々無防備なようにも感じますね」
広間に着くと料理対決の為に設けられた特別厨房から既においしそうな香りがしていた。
「おおっ! やっぱり僕たちに試食を頼むんじゃないですか? 」
と腹をググ~っと鳴らしながらシエラは言った。
そのにぎやかな声を聞きつけて、執事長カルケンという人が階段から降りて来た。そして丁重に私たちを簡易客間へ案内してくれた。
「ねぇ、なんだろう、シエラ。なんか不安になってきちゃったよ。私たち捕まっちゃうんじゃないの? 」
「やだなぁ、心配しすぎですよ。それにいざって時はこの壁ぶち壊して逃げちゃえばいいじゃないですか」
言葉少ない執事長カルケンさんが『少々お待ちを.. 』と言ってから30分くらいが過ぎた。
部屋の扉前で何やら話し声が聞こえる。
[ とんでもありません。そのようなことは私どもが行います ]
[ ダメよ。私がいれたブレンドティーなんですから、私が自分で持っていきます ]
[ でも、それでは給仕の私どもが叱られてしまいます ]
[ 大丈夫! 大丈夫! カルケンには私からちゃんと言っておきますから! ]
執事長カルケンさんが頭を抱えていた。
— ドガン!
お盆にティーセットを乗せた女性が足でドアを蹴り上げて入ってきた。
「やぁ! お久しぶり! アカネちゃん、シエラちゃん! 」
「「ラヴィエ! 」」
元気よく入ってきたのはアリアの町の感謝祭で茶色のフードを被った杏美ちゃん、もといラヴィエだった。
「この前はごめんなさい。もうちょっとお話したかったんだけど、担がれるように馬車に乗せられちゃって.. 」
「って、その服は? 」
ラヴィエの服はアリアの感謝祭の時の服とは違って、豪華なレース模様が入ったライトブルーのドレスだった。とても町娘が着られるような代物ではなかった。
「私..なんといいましょうか.. ただ、お父様がこの国を治めていますだけですわ」
「てことは ..王女さまなの? 」
「やっぱり.. 」
「なに、シエラ? あなた気がついていたの? 」
「なんか偉い人だとは思っていました。あの感謝祭の時、群衆の中になかなか腕利きの護衛がいましたからね」
「そうだったんだ。私、気が付かなかったよ」
「私としては気が付かなくて良かった。シエラちゃんは気が付かないフリしてくれてありがとう。私、ひとりの女の子として他の女の子と接することが今までなかったの。だから、ほんの少しの時間だったけどとっても楽しかったの。それにアカネちゃんとは初めてあった気がしなかったから、『また逢いたいな』って思ってたんだ」
「うん。私も逢いたかったよ」
なんかとっても嬉しくて涙がでてきた。
「ところでラヴィエ、今日僕たちをここに呼んだのは、それだけなの?」
「シエラ、試食させろなんて言わないで! 恥ずかしい」
自分の耳が赤くなっていくのを感じた。
「あはは。アカネ、大丈夫よ。私、初めからそのつもりだったんですから。2人には是非、試食も兼ねてフェルナンの料理を食べてほしかったの。でもね.. 」
ラヴィエの顔が曇った。
「どうしたの? 」
「今朝、王宮の総料理長タニシが行方知れずになって.. 急遽、天才料理人サリカとアリア料理人ピルクの2人で料理を作ることになったの.. 」
「2人で大丈夫なの? 」
「うん。問題ないと言うことでした」
「それならよかったじゃない」
「 ..」
「どうしたの? ラヴィエ.. 何か心配なの? 」
「実は私、アコウさんに無理なお願いをしてしまったかも。今思えば、3人を巻き込んでしまってよかったかどうか.. 」
「どういうこと? 」
「 ..以前より、不穏な動きがあったのです。王都フェルナンの料理人が次々と大ケガを負ったり、中には失踪してしまった者もいました。料理大会までひと月に迫った頃、王宮に『天才』と名高い料理人が訪れたのです。それがサリカでした。彼は自分の力を役に立ててほしいとジイン王に談判しに来ました。料理大会までサリカは王宮の厨房で働くことになりました。しかし王宮料理長タニシがサリカの身体につく微かな匂いに気が付きました。それはケミシドリルの根に含まれる毒の匂いです」
「なに!? それってヤバイ奴なんじゃないの? 」
「 ..さっき料理長タニシが行方知れずになったと言いましたが、実は違うのです。私が別の場所で料理を作らせているのです。そして今、その助手としてアコウさんに手伝ってもらっています」
「え? 今? 」
「はい、勝手にごめんなさい。今朝、早い時間にアリアの町に頼みにあがりました。少し強引でしたがなんとか了承してもらったのです」
「でもアコウで大丈夫なの?」
「大丈夫です。実は昨夜、感謝祭には料理長タニシもいたのです。アリア鍋を食べたタニシが『この味は本物だ』と言っていました。今朝も直々にタニシが頼みに行ったんです」
「そうなんだ!凄い!でも、何で別の場所で料理を作っているの?」
「 ..きっとサリカはこの料理対決の催しで何かとんでもないことをするような気がするのです。例えば..」
「例えば『毒による暗殺』とか?」
シエラが衝撃的なことを平然と言った。
「え? まさか?」
「いいえ、最悪な事も考えなくてはいけません。だから私はこの場で彼の化けの皮をはがすつもりなのです」
ラヴィエの顔は言葉の重みに緊張しながらも、固い決意を感じるものだった。
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