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2章 第31話 狐か? 狸か?
2章 運命の輪 roue de la Fortune
私、「時の加護者」。
アカネとシエラはフェルナン国ラヴィエ王女の計らいでフェルナン国とギプス国の親善イベントである料理対決に招かれた。
私たちが料理対決を待っている間に、裏ではラヴィエ王女と料理人サリカがバチバチにやりあっていた。
—フェルナン王国 王宮広場・特別厨房—
『みなさん、少し手を止めて聞いてください。今朝、料理長タニシが行方不明になった事は私の耳にも届いております。2人では何かと大変でしょうが、がんばって美味しい料理をつくってくださいね。期待していますよ』
「王女様のお心づかい感謝申し上げます」
天才料理人サリカが言葉を返すがその慇懃さがラヴィエには鼻についていた。それよりも..
「サリカよ! アリア料理人ピルクの姿が見えませんが、どうしたのですか?」
「はい。あのピルクという男、腹の具合が悪いと休憩室で休んでいます。さすがに私ひとりでは全ての料理を出すのは困難を極めます。そこで私の従者に手伝わせております」
「誰がそのような事を許可したのです! 」
「ボルド大臣には許可を取っております。それともこの大切な料理を人手不足のまま作れとおっしゃるのでしょうか? 」
いつものボルド大臣の勝手な決定には苛立たされたが、この状況ならば許可を出さざるを得ないことにも納得した。しかし、それよりもサリカの思い通りになっていることにラヴィエは主導権を握られそうで焦りを感じた。ここが踏ん張りどころだ。
「 ..わかりました。許可しましょう。あとでボルドにも確認いたします。その代わりその出来上がった料理をまずは私が確認いたします。いいですわね」
「はい。ありがとうございます.. 」
サリカは頭を下げながらも小刻みに背中が揺れているのが見て取れた。あいつ、笑っているのだ。
しかしこちらに帰って来るラヴィエの口元にも笑みが浮かんでいた。
アリア料理人ピルクが抜けたことはラヴィエにとっても好都合なのだ。
料理に仕込まれた毒をあばいた時に、サリカは誰のせいにすることもできない。
『彼は逃げ道を自ら手放したのだ』
そう思うと主導権はやはり自分にあると思うラヴィエだった。
王宮の右陣営は王国フェルナンの料理人、左陣営は王国ギプスの料理人が腕を振るっている。
夕刻5:00の全25品の料理対決が本格的に始まった。
夕刻までの間、フェルナンのジイン王とギプスのスタン王は友好国としての貿易外交を中心に話し合っていた。
他の王宮のイベントではラヴィエはお忍びで王宮外に出かけてしまうことが多かった。だが、今回は料理対決という催事と同時に二国間の王の話し合いの場となっている。
当然、警備はいつもよりも固くて、とてもじゃないけどお忍び散策など出来る状況ではなかった。
—そこでラヴィエは私たちに王宮内を案内してくれた。
王宮内はとても広く、部屋も多い。部屋のドアから中の装飾に至るまで豪華絢爛、廊下には多くの給仕が控えている。王宮生活の優雅さを肌で感じることが出来た。
そんな中で私が注目したのは、家具や食器、もしくは小物に至るまでに施されている職人技の数々だ。
それらは高貴で美しいが下手な派手さはなく、素材の質感漂う素晴らしいものばかりだ。
この国の豊かさが職人の技術力からうかがい知ることが出来る。
ひとつの物から職人の性格やこだわりなどの想像を膨らませる.. アンティーク好きの醍醐味と言ってもいい。
ラヴィエが最後に案内したのは王宮の最上階の小さな間。そこには「アリアの町」を守るために命かけて闘い続けた「勇者アリアの剣」が奉納されていた。
「これは王家の家宝よ。フェルナン国の名のある刀工に磨いてもらい奉納してるの」
私はその剣に宿る思いをどこかで感じながら食い入りように見つめた。すると刀には『愛する君と共に』と刻まれている。剣に反射するラヴィエを見ると、その刀を愛おしく見つめているようだった。
「そうか.. そうだったのか」
その時、シエラが気になることをひと言つぶやいていた。
—ラヴィエの部屋—
ラヴィエの部屋は17歳の女の子らしく可愛らしく淡い色でコーディネイトされていた。
「さて、2人にはここで着替えてもらわなくちゃね」
ラヴィエの顔が悪だくみしているような顔に変わった。
「え? 」
「両国の要人がいる料理の席でその服装ではさすがに困りますわ」
ノックと共にラヴィエの部屋に乳母が2つのドレスを持って入ってきた。淡いグリーンとイエローのドレスだ。
「え、僕、嫌だよ。このままじゃダメかな? 」
「ダメです」
ばぁやさんの容赦ない否定。
「ばあや、二人に着せてあげてください」
「はい、お嬢様。かしこまりました。それではお二人とも始めましょうか」
「ばあやさん、お手柔らかに..」
私はおとぎ話でしか見たことのないドレスを着ることに大きな期待と、このコルセットに少々の不安を覚えた。
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