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1章 第9話 まずはレギューラの丘へ
1章 懐中時計 Montre de Poche
私は一ノ瀬茜
神官グラムの宮殿で間一髪、どこか私に似ていて、どこか懐かしいシエラ様に助けられた。でも、現実では考えられない数々のことに私の頭はパニック状態!とりあえず、グラムの宮殿から逃げるとしよう!
—グラムの宮殿 外—
馬車? いや牛車?
「ねぇ、シエラ様、この荷車を曳いているのは何という動物? 」
私とシエラはグラムの宮殿から飛び出し、乗せられてきた馬車までたどり着いたのだが..
「ちょ、ダメですよ。アカネ様。彼らを馬や牛と同じにあつかうと気を悪くしちゃいます。彼らは人族の言葉を理解する誇り高きヒュー族です。注意してください」
というわけで、私たちは荷車を奪い取り、宮殿を後にした。ヒュー族はとても頭が良く行先さえ伝えると、その場所まで御者(ぎょしゃ)なしで連れて行ってくれる。なぜ、人を連れて行ってくれるのかはよくわからないけど、彼らなりの楽に生きるための知恵なのかもしれない。
これから目指す場所は、ここウェイト国の北西にある聖地『レギューラの丘』だそうだ。今はそこが一番安全で、どうしても立ち寄る必要があるそうだ。私が『この世界はいったい何なのか? 』を質問してもシエラ様は黙ったままだった。ただ、私を捕まえた連中については教えてくれた。
彼らは『元(はじめ)の民』と呼ばれる集団。もともとは「時の加護者」を補佐していた従者ヨミがその特別な力で作り上げた集団らしい。
「『元の民』っていうのは、あのグラム様の服装から宗教か何かなの? 」
「まぁ、似たようなものです。ただヨミの作り出した幻想ですが.. 」
「へぇ..ヨミって人はどういう人なの? 」
「ヨミは、かつて、あなたの補佐を務めた従者ですよ」
「ふぅ~ん。シエラ様。で、あなたは? 」
「あなたを守る者です。主をモチーフに作られた主を守護する者。それが僕です」
「ほぅ、ほぅ。それで私はいつ帰れるの? 」
「アカネ様! 真剣に聞いてないでしょ!? これは夢でも何でもないのです! 現実なのです。あなたはもうあちらの世界に行くことは許されません」
「え、え~..嫌だよ..だって私、シエラ様がいう人物とは別人だもん」
「そんなわけありません。今は記憶が混乱しているだけです。僕が今、こうして動いているのが何よりの証拠。あなたが別人ならば僕は石像のままですから」
「石像って? 」
「あなたが約40年前に姿をお隠しになった後、この世界を満たしていた3主の力が少しずつ衰えた。主の恩恵が弱まると僕らは石像に戻ってしまうのです」
「主って私のこと? 」
「そうです。だから従者の僕に『様』はつけないでくださいね」
「あなたの話が本当だとしたら、シエラは私がベースになっているんだよね? でも.. 何となく違くない? 」
「ちょ、ちょっとアカネ様よく顔を見せてください! 」
それから約1分黙ってシエラは私の顔をまじまじと観察した。
「な、なんということ! 僕の方が可愛いい! 」
「ちょっと! なに! 」
「アカネ様、少し顔をいじりましたか? 」
「何言ってんの! 私はもともとこういう顔なの! だいたい私の方が可愛いじゃない! ..でも、シエラ、あなた何処かで見たことがある顔なんだよね」
私はしばらく考えた。いったいどこで見た顔だろう。
「あっ! あなた私のおばあちゃんの若いころにそっくりなんだよ! 」
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