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Storyは進化する(文学年表) 第二部
1804 『ミルトン』 ウィリアム・ブレイク
ロマン主義に属する詩人、画家。テキストとイラストを融合させる手法を編み出した。神秘主義者スヴェーデンボリの影響を受け、預言書とも評される大作を生み出した。『エルサレム』の序詞が現在のイングランド国家となっている他、主作品がハクスリー、トマスハリス、大江健三郎などの作品に引用されている。 イギリス
1811 『ウンディーネ』 フリードリヒ・フーケ
民間伝承を元にした恋愛悲劇。フランスとドイツでオペラとして上演され、幾度も成功している。 ドイツ
1813 『高慢と偏見』 ジェイン・オースティン
軽妙で楽観的な恋愛ストーリー。結婚という人生の節目に奔走する人々の姿を楽観的に描く恋愛作品が多い。後世の映画・家庭ドラマの模範に。優れた話法。著者の手書きによる多くの書簡が残されており、当時の文化や風俗を知る上で、貴重な資料となっている。九才の頃から、シェイクスピア、ミルトン、バイロンの作品に親しみ、サミュエル・ジョンソンの道徳観に共鳴している。日本の文学者、夏目漱石により、その優れた筆致を紹介されている。 イギリス
1813 『影をなくした男』 アーデルベルト・フォン・シャミッソー
由緒ある貴族の家に生まれるが、フランス革命により没落。一時はプロシアにわたりナポレオン戦争に従軍するが、嫌気がさして故郷に戻る。フケーの盟友。旅行中に持ち物のほとんどを失う災難に遭い、「もし、影まで失くしていたら……」の発想から本作が生まれたとされる。17世紀の詩人、ラ・フォンテーヌの著作からも影響を受けている。晩年はベルリンで過ごした。 フランス
1815 『砂男』 E.T.A.ホフマン
「不気味」という感情の語源。著者は音楽家でもある。 ドイツ
1818 『フランケンシュタイン』 メアリー・シェリー
1816年にジュネーヴ湖畔に集まった詩人たちの恐怖小説比べから生まれた。様々な形式をとる複合小説。 イギリス
1830 『赤と黒』 スタンダール
ナポレオンへの憧れに端を発する、ヒロイズムに突き動かされた、ロマン主義的な恋愛小説をものした。バルザックの激賞を得た『パルムの僧院』も名作である。自身の生き方の中でも、女性たちとの恋愛を最重要の主題としていた。 フランス
1831 『ファウスト』 ゲーテ
二部構成の長編戯曲 全編が韻文 作者は哲学の分野でも、後の学術の発展に大きく貢献した。ドイツ
1834 『スペードの女王』 プーシキン
ロシア近代語の確立者。ロシアにおけるゴシックロマンの先駆け。幻想的な散文作品。ツルネーゲフ、ドストエフスキーらに影響を与える。最期は決闘により受けた傷がもとで亡くなる。 ロシア
1835 『ゴリオ爺さん』 バルザック
ひとりの人間が自分の作品のみならず、他人の作品にも登場して、影響を及ぼす「人物再登場法」を採用した。人は動物と同様に職業という型紙によって区分され、身に飾る装備品で思想や人生を表現すると論じてみせた。この考えは、各登場人物の職業に異様なほどに執着する作品を好んだ、フランツ・カフカに影響を及ぼした可能性もある。経済が人間の生活に及ぼす影響(金銭欲・物質欲)を作品中に積極的に取り入れた。民主的な選挙によって大衆が力を持つ社会を否定する王党派保守層であるが、物語の内容は市民の日々の暮らしに寄り添った人情味溢れるものであり、リベラル派の思想家にも支持者が多い。物語の冒頭や途中で、ストーリーにはさして関連のない持論を長々と並び立てる癖がある。金と性欲におぼれた、破滅的な人生を送った。学生時代から両親や知人らにより幾度も作家としての才能を否定されている。その苦しい体験が、異常なほどの執着心や反骨心に育っていった可能性がある。サマセット・モームによって、唯一の天才と評された。 フランス
1835 『アンデルセン童話』 ハンス・クリスチャン・アンデルセン
アラビアンナイト、シェイクスピアの作品に影響を受けて、劇作家を目指した。貧困層の悲惨な暮らしを見て育ち、それを反映した、人魚姫・マッチ売りの少女・みにくいアヒルの子などのメルヘンを次々と描いて、人生に救いを求めた。 デンマーク
1839 『モルグ街の殺人』 エドガー・アラン・ポー
探偵小説の始祖。ホラー作品において、ゴシックとグロテスクを重ねて、いくつかの新しい心理モデルを構築した。ボードレールなど、フランスの象徴派にも影響を与えた。著者は貧困の中で破滅的な人生を送った。 アメリカ
1845 『カルメン』 プロスペル・メリメ
魅惑的なジプシー(ロマ)の娘と衛兵との歪んだ恋の駆け引き。最後は破滅へと向かうが、恋愛のひとつの極地でもある。短編作品にも関わらず、物語の最後に余分とも思えるほどの長い蘊蓄(うんちく)がある。ジャック・ビゼーによりオペラ化され、その後はニ十本以上もの映画の原作となった。著者は考古学者、美術史家でありながら、政治家でもあった。 フランス
1846 『モンテ・クリスト伯』 アレクサンドル・デュマ・ペール
ロマン主義 歴史小説 フランス
1847 『嵐が丘』 エミリー・ジェーン・ブロンテ
最後のロマン主義作家。ブロンテ三姉妹の次女。若い頃から鬱、不眠、拒食症などを患っていた。貧困の中で勉学を重ねて、自身の体験にはよらない、想像力にのみ頼った独自のストーリーを創り出した。初期の本は男性名で出版された。最初に発売された詩集は二部しか売れなかった。近年は詩人としても再評価を受けている。ヴァージニア・ウルフやサマセット・モームらに絶賛されている。 イギリス
1847 『虚栄の市』 ウィリアム・メイクピース・サッカレー
イギリス
1848 『メアリ・バートン』 エリザベス・ギャスケル
社会改革への理念。イギリス
1850 『緋文字』 ナサニエル・ホーソーン
善悪や罪を扱った宗教的な内容。自身の祖先に魔女狩りに関わった人物がいたことに衝撃を受けた。ゴシックロマン小説。初期の短編にも優れた作品が多い。 アメリカ
1851 『白鯨』 ハーマン・メルヴェル
類を見ない規模の海洋(冒険)小説。旧約聖書からの引用が多い。Story の約束ごとからの脱線。生前は凡庸な海洋小説作家としての評価しか得られなかった。著者の作品が正当に評価されるのは1920年代に入ってからである。 アメリカ
1852 『幻視者』 ネルヴェル
中世の怪行動者や神秘主義者たちを『社会主義の先駆者たち』という見出しで紹介する。西アジアを訪問した際に神秘主義文献を読み込んで、これに影響を受けている。フーリエ主義に影響を及ぼす。晩年は奇行が目立つようになり、最後は謎の多い自殺を遂げる。ユゴーや大デュマの親友。二十歳になる前にファウスト翻訳に着手して、ゲーテ本人から称賛される。シュールレアリスムに影響を与える。 フランス
1857 『ボヴァリー夫人』 フローベール
まるで、目に見えるように書かれた文学。近代文学にリアリズムを初めて持ち込んだ作品。実在の事件を規範にして、冷徹な筆致により書かれている。いくつかの失敗作を経て、ロマン主義ストーリー文学に依らない新たな分野を切り開いた。14歳から文学作品の執筆に取り組んでいるが、発表された長編作品は六作のみで寡作家として知られる。文章の練り上げに特段の力を注いだためである。カフカやジョイスなどに影響を与える。フランス
1859 『二都物語』 ディケンズ
英国の国民作家であり、写実主義の大家であるが、怪奇的・幻想的なある種独特な雰囲気を持つ作品が多い。物語の前半部分に複数のギミックを仕掛け、フィナーレで読者が抱えていた全ての疑念を一気に払拭してみせるスタイルは、デュ・モーリエなど、その後のストーリーテラーに大きな影響を与えた。 イギリス
1862 『レ・ミゼラブル』 ヴィクトル・ユーゴー
ロマン主義大河小説。バルザックの盟友。詩人として多くの作品を残して国葬にされた。 フランス
1865 『月世界旅行』『八十日間世界一周』 ジュール・ヴェルヌ
著者は文明の発展を自然への冒涜とは見ずに明るい未来への時間軸をひたすら進む運動と捉えた。ポーのアイデアを引き継いだSFの開祖のひとりであり、科学技術の発展は人間社会において、不可能を可能にすると考えていた。時間の流れに沿って、出来事を順番に追っていくクロノロジックと、それを逆手に取る手法(テクニック)を得意としていた。現在のアニメや、ディズニーランドのコンテンツなどにも強い影響を与えている。 フランス
1865 『不思議の国のアリス』 ルイス・キャロル
シュルレアリスムの精神的祖先 教訓詩のパロディ。伝統的な教訓本からの脱却。著者は少女たちの美しさに生涯惹かれ続け、発明されたばかりのカメラを使用して、少女をモデルにした肖像写真を大量に残した。 イギリス
1867 『資本論』マルクス
経済学の大家。エンゲルスと共にバルザックから大きな影響を受けた。プロイセン(ドイツ)
1872 『ミドルマーチ』 ジョージ・エリオット
写実主義、心理洞察。福音主義から不可知論者へ。自身の半生の振る舞いに基づく、道徳的なテーマ。 イギリス
1877 『アンナ・カレーニナ』レフ・トルストイ
帝政ロシアのリアリズム小説。交差するストーリーを巧みに書き分ける。この手法は後に多くの作家に模倣されて、一つの技法として定着していく。二大長編を書き上げた後の晩年は、若年時代の放蕩生活をひどく後悔して、物欲や性欲を含む、人間の快楽の全てを否定した。貴族の家に生まれ、若い頃は放蕩生活を続けた。二代長編を書き終える頃から人生に悩み、物質的な富を断念した禁欲主義者となった。苦悩の深い人生であった。その非暴力平和思想はガンジーやキング牧師など多くの思想家に受け継がれていく。 ロシア
1879 『人形の家』 ヘンリック・イプセン
戯曲 女性解放運動 スウェーデン
1880 『カラマーゾフの兄弟』 フョードル・ドストエフスキー
農奴解放令による人間社会のひずみの中で、旧来の秩序が崩壊していくさまと不安のはびこる人間群像を長編作品として、次々と描いていった。この作品は神と人をテーマにした総合小説。作品の冒頭で次作があることを表明していたが、作者の急死により頓挫した。父親が農奴達に惨殺された体験も、この作品に大きな影響を与えている。作者は思想家との会合を摘発され、死刑宣告を受けたことがある。この体験は後に『白痴』などの作品のエピソードとして生かされている。 ロシア
1880 『実験小説論』 エミール・ゾラ
全20作で構成されたライフワークの作品群。『ルーゴン・マッカール叢書』を著した。その中に収められている『ナナ』や『居酒屋』が発売と同時に大変な評判となった。また、ドレフュス事件の冤罪を確信し、その再審運動に尽力した。最後は不審な死を遂げている。自然主義 フランス
1880 『ベン・ハー』 ルー・ウォーレス
新約聖書に登場する人物を元に構想された架空の物語。
主人公とキリストの生涯を交錯させて描いている。南北戦争時に北軍の将軍であった著者は、自身の失態から多くの非難を浴び、そのことがこの大作を書かせる要因となった可能性がある。ハリウッドで三度映画化され、いずれも大成功を収めている。 アメリカ
1883 『ツァラトゥストラはかく語りき』 フリードリヒ・ニーチェ
永劫回帰説によって、従来のキリスト教的世界観と真っ向から対立する。人間性の探究に基づく、様々なアフォリズムを書き残した。市場経済や地位名声といった位置から遠く離れ、己の運命のみを見つめて、真の自由を求めることを説いている。 プロイセン→ドイツ
1884 『さかしま』 ジョリス=カルル・ユイスマンス
エミール・ゾラに見出される。ワイルドと並ぶ退廃主義。悪魔主義との決別。カトリック神秘主義への傾倒。 フランス
1885★『小説神髄』坪内逍遙 日本
1885 『ハックルベリー・フィンの冒険』 マーク・トウェイン
幼少期の苦労を乗り越えて、大ヒット作を次々と生み出し、アメリカンドリームを体現した。著者自身も対話の中に洒落れた言い回しを巧妙に織り交ぜることを得意としていた。著作の『トム・ソーヤーの冒険』は、アメリカで初めてタイプライターを用いて書かれた作品でもある。 アメリカ
1886 『ジーキル博士とハイド氏』 ロバート・ルイス・スティーヴンソン
二重人格を題材にした怪奇小説。イギリス
1888 『月桂樹は切られた』 エドゥアール・デュジャルダン
内的独白の先駆者 フランス
1888 『緋色の研究』コナン・ドイル
探偵小説の大家。叙景は省くべきという探偵小説の常識を覆し、風景描写を綿密に行うことで、プロットとの一体化を図っている。怪奇的な雰囲気と解しやすい展開を旨とし幅広い読者層を意識していたと思われる。実際の事件においても、警察の捜査の不手際を指摘したことがある。一次大戦での仲間の戦死のショックから、晩年は心霊主義に傾倒していく。 イギリス
1889 『退屈な話』 アントン・チェーホフ
短編小説の第一人者。おどけた市民たちを描く。外的な筋や世界観を省き、登場する人物の台詞や細やかな心情によって物語を展開する。トルストイを尊敬しており、当時、流刑地となっていたサハギンへ囚人たちの過酷な生活を観察して見聞録にまとめている。その多くの短編作品は日本の作家太宰治、井伏鱒二、井上ひさしや、イタリアの映画監督ルキノ・ヴィスコンティにも愛された。後期は作風に暗さを増す。 ロシア
1891 『ドリアン・グレイの肖像』 オスカー・ワイルド
退廃的・芸術至上主義。人生は芸術を模倣するという逆説を語った。宇宙のあらゆるものは美によって正当化されると考えた。その文学のほとんどは社会との抵触を欠いている。日本文学への強い影響。 アイルランド
1893 『橋を造るものたち』 ラドヤード・キップリング
インドで生まれ、6歳で渡英して、英語教育を受ける。帝国主義的な集団行動・愛国心教育を受けたことにより、反知性主義的な思想に陥る。ただし、著者の発言の全てが保守的・差別的であるとまでは言えず、政治思想の評価については分かれている。三百篇以上の短編作品をものした。単純には主題のつかみにくい隠蔽と韜晦(とうかい)の手法を生み出した。イギリス最初のノーベル文学賞作家。 イギリス(インド生)
1894 『カイエ』『テスト氏』 ポール・ヴァレリー
フランス第三共和政を代表する知性である。マラルメやボードレールなどの象徴主義から出発して、単純なストーリー文学からの脱却を目指した。もっとも優れた知性とは、無名の人、己を出し惜しむ人、何も告白することなくこの世から消え去る人であると夢想し、限られた友人とのみ交流をする静かな生活に身を委ねる。『カイエ』は、公表を前提としない思索の記録。『自己主張を拒否する語り手』『自分ではない自分を語る』第四視点法の確立。語り手と主役との鏡のような二重構造手法の構築。日本では、小林秀雄、堀辰雄、堀口大學などに影響を与える。アンドレ・ジッドの盟友。死を見据えながら生きる「死のモラル」。 フランス
1895 『タイム・マシン』H・G・ウエルズ
時間旅行について書かれた初期の作品 イギリス
1898 『ねじの回転』 ヘンリー・ジェイムズ
ゴシック小説の先駆け。それまでの主流派とは異なり、ある状況を想定して、それから、その状況に合わせた人物たちを想像した。 アメリカ生まれ イギリス国籍
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