Storyは進化する(文学年表) 第三部

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Storyは進化する(文学年表) 第三部

1900 『オズの魔法使い』 ライマン・フランク・ボーム 1902 『闇の奥』 ジョゼフ・コンラッド ロジャー・ケイメンスが、ベルギーによるコンゴでの略奪を告発したことから着想を得たといわれる。西洋による植民地主義の闇の側面を描写した自伝的小説。フロベールの崇拝者。 イギリス 1903 『野性の呼び声』 ジャック・ロンドン 動物を擬人化した動物フィクション。ゾラの自然主義文学。カール・マルクスの『共産党宣言』などに影響を受けた。 アメリカ 1903 『ヘンリー・ライクロフトの私記』 ジョージ・ギッシング 報われない労働者たちの実生活を描いた作品で評価される。本作品は田舎町に隠居した架空の人物の随筆の形をとり、かつては、日本でも多くの若者に読まれていた。 イギリス 1905★『我が輩は猫である』 夏目漱石 日本 1906 『ニルスのふしぎな旅』 セルマ・ラーゲルレーヴ 著者がスウェーデンの各地方で調べた歴史と地理の知識を織り込み、民話風に仕立てた。 スウェーデン 1909 『オペラ座の怪人』 ガストン・ルルー 19世紀のパリ国立オペラで起こった史実を引用。この原作を元にして、多数の映画、ミュージカルが製作された。 フランス 1911 『トバモリー』 サキ ブラックユーモア、貴族的な短編作品を残した。イギリス 1911 『ピーター・パンとウェンディ』 ジェームス・マシュー・バリー イプセンの戯曲やデフォーの『ロビンソン・クルーソー』などに影響を受けて描かれた作品。アニメ、映画、テレビ番組などに制作、放映された。作家のデュ・モーリエが子供時代に従兄弟と遊んでいる姿をバリーが目撃したことで、このストーリーを思いついたという俗説があったが、年代等に一致が見られず、眉唾である。 スコットランド 1912 『神々は渇く』 アナトール・フランス  フランス革命を舞台に、人を裁く立場から、裁かれる立場へと転落していく若者を描く。日本の芥川龍之介に影響を与えた。 フランス 1912 『あしながおじさん』 ジーン・ウェブスター 孤児院出身の少女が毎月一回の手紙報告を行うことを条件に、大学進学のための資金援助を受ける。日々の生活をつづっていく、その手紙自体が本作品のストーリーである。書簡体小説の代表作品。貧困者に対して、進学資金を援助するという考え方は、あしなが育英会や交通遺児育英会という名称を与えられ、現在の日本の制度としても残されている。著者は『トム・ソーヤーの冒険』をものした、マーク・トウェインの姪の娘にあたる。 アメリカ 1915 『変身』フランツ・カフカ  ニーチェやフロベールに影響を受け、民族的・家庭的孤立を背景に不条理を描く。『夢の論理』『夢の形式』と呼ばれる作風。長編作品のほとんどが未完に終わっている。再評価されたのは、死後、かなり経ってからであるが、生前にも、ムージルやリルケなどに高く評価されていた。控えめな性格と受け取られることが多いようだが、友人知人の前で自作を読み上げることを好んだ。古代神話ふうの短編、夢の表現による物語、多数のアフォリズムを描く才能を持っていた。恋人に宛てた大量の手紙が残されている。自分を含む物語の主人公に劣悪な結末を用意することが多いのは、幼い頃からの父親との確執が下地にあるものと思われる。 チェコ 1915★『羅生門』 芥川龍之介  今昔物語集 エゴイズム 日本 1916 『ゴーレム』 グスタフ・マイリンク E・A・ポーやホフマンから強い影響を受けた恐怖の幻想小説。ユダヤ教やキリスト教他、東洋の神秘思想を学んでいる。世界を不条理なものと捉え、非現実的なものと考えていた。そういった考えを下地に、幻想的で残虐な作品を生んだ。銀行業に十三年間従事している。 オーストリア 1917 『精神分析入門』 フロイト  精神分析学の創始者 シュールレアリスムの祖 オーストリア 1919 『月と六ペンス』サマセット・モーム   通俗小説の代表作。難解さより面白さを小説の醍醐味と考えた。イギリス 1922 『園遊会(Garden Party)』キャサリン・マンスフィールド  意識の流れ。チェーホフを尊敬し、意識した。ウルフの親友。薄幸の人生であった。最期の言葉は「私は雨が好き」 ニュージーランド 1922 『チボー家の人々』 ロジェ・マルタン・デュ・ガール トルストイに影響を受けて、大戦を民衆の視点から見つめた本作を企画。 フランス 1922 『ユリシーズ』 ジェイムズ・ジョイス  『オデュッセイア』との対比。繰り返し登場する虚構言語。複合語や換喩など、これまでにない、新しい文章表現を実現した。アメリカでの猥褻裁判。多種多様な文体を用いて書かれ、膨大な量の駄洒落や引用、謎かけや暗示などを駆使する長編作品。余りに難解な作品であったため、各国で翻訳作業が難航するフランスでは多くの翻訳家が本来の業務に費やす時間を失う羽目になり、日本では丸谷才一ら三名がかりにて翻訳作業を成し遂げている。この作品以降、文学の主流は次第にストーリーを離れて、不理解の手法へと歩みだしていく。 アイルランド 1922 『荒地』 T・S・エリオット 第一次世界大戦後の西洋の混乱を前衛的な表現で綴った、前衛的な詩である。 アメリカ生まれ 1924 『魔の山』 パウル・トーマス・マン ドイツの教養小説。軍隊への貢献を責務としている従弟や、様々な知識人との対話を通して、主人公が成長していく様を描く。著者は世紀末に蔓延っていた退廃的な芸術家たちに失望して、市民的気質と芸術家気質との融合を目指した。第一次大戦においては、愛国者として西欧文化の波から祖国を守ろうとする立場から、戦争に賛成したが、第二次大戦においては、ナチス体制批判の立場から戦争に反対を表明している。 ドイツ 1925 『ダロウェイ夫人』ヴァージニア・ウルフ モダニズム文学。作中人物の瞑想やとりとめもない物思いを小説の言語の一部として変換することに取り組んだ(意識の流れ)。いわゆる感覚的な表現方法よりも、小説のもつ根本的な技法を重要視した。著者はフェミニズム運動にも共感していた。同じ箱庭に在る人々を異なるストーリーで描いてみせた、ジェイン・オースティンを絶賛した。日本の古典である源氏物語に興味を示していたことでも知られる。 イギリス 1925 『グレート・ギャツビー』 F・S・フィッツジェラルド 1920年代のロスジェネ(失われた)世代の旗手。モダニズム。ジャズエイジの象徴的存在。繁栄から没落へと突き進む時代の趨勢を我が身で反映するかのような人生を送ることになった。大恐慌直前の好景気に湧く若者の青年たちの行状を描いたが、金と女に溺れた自身の目に余る奇行を作品の中に描くことはなかった。 アメリカ 1925 『贋金つくり』 アンドレ・ジッド  複合的なプロット、ヌーヴォー・ロマン フランス 1925 『クマのプーさん』 アラン・アレクサンダー・ミルン イギリスの児童文学作家でファンタジー作家でもあるが、推理小説も得意としていた。1925年の12月24日に『イヴニング・ニュース』のクリスマス特集として第一話が掲載された。以後、人気を博し、各国でアニメ化されている。単行本のシェパードの絵が余りにも有名であるが、ふたりともに第一次世界大戦に参加している。ふたりの生還なくして、この名作は生まれ得なかっただろう。 イギリス 1926 『アクロイド殺し』 アガサ・クリスティ  幼少の頃、母親からの特殊な教育を受ける。他の作品の中ではバルザックの存在に言及している。当時の英仏の関係は? 政治的内容を含む作品、正義より命の重さを重視する見解もある。フェア・アンフェア論争 イギリス 1929 『恐るべき子供たち』 ジャン・コクトー  詩人、小説家、劇作家、評論家としてだけでなく、画家、映画監督、脚本家としての活動も行っていた。この作品は、己の運命の受諾というテーマを訴えている。 フランス 1929 『西部戦線異状なし』 エーリヒ・マリア・レマルク  本作は世界各国で大ベストセラーとなり、翌年に映画化。アカデミー賞を受賞する。ナチスによる政権掌握後、アメリカに亡命するが、妹は捕えられ、処刑されてしまう。大戦後は、ナチスの蛮行と二度の大戦の詳細を描ききった作家として不動の地位を築く。 ドイツ帝国出身、アメリカ国籍 1930 『幸福論』 バートランド・ラッセル 現実主義的な平和主義。神の不可知論を提唱。宗教は科学の前に敗れると説いた。大戦の最中に、政府発表やマスコミからのプロパガンダを批判し、これらを欺瞞だと看破した。 イギリス 1930 『特性のない男』 ロベルト・ムージル ポスト・モダニズム。旧オーストリア=ハンガリー帝国の自壊に至る過程を物語る長大な作品。前半部分は、ドイツ皇帝の在位三十周年の記念祝典に対抗すべく、オーストリアにおいても、ヨーゼフ皇帝在位七十周年を民族的に祝おうとする『平行運動』という幻像をテーマにしている。捉えどころのない文章と理念。どこまでもつかみがたい現実。作者死亡のため未完。 オーストリア 1932 『すばらしい新世界』 オルダス・ハクスリー ディストピア小説の傑作。 イギリス 1932 『夜の果てへの旅』ルイ=フェルディナン・セリーヌ 反ユダヤ主義 フランス 1932 『ラデツキー行進曲』 ヨーゼフ・ロート 戦争という現実に即した歴史小説。反ナチズム。大戦の犠牲者。 オーストリア 1932 『八月の光』 ウィリアム・フォークナー 初期はアメリカの文学よりもイギリス系の文学に憧れていた。ひとつの小さな郡を創造して、そこを舞台に多くの大作を描いた。意識の流れ、人物再登場、複数の主役による複合的プロット。 アメリカ 1933 『肉桂色の店』 ブルーノ・シュルツ 著者は作品の中でさまざまな二項対立(人間と人形、人工と自然、実在と非在、生者と死者など)やヒエラルキーを反転させ、溶解させていく手法を得意とした。カフカとの類似もみられる。 ポーランド 1934 『自殺総代理店』 ジャック・リゴー シュールレアリスム。20歳の頃から、将来の自殺を予告した。挑発的でニヒルな行動が目立つようになる。30歳のときに予定通りのピストル自殺を行う。遺された手記には、自殺と生との間で揺れ動く、複雑な心情が描かれており、大きな反響を呼んだ。ブルトンによって、永遠のダンディズムと評された。 フランス 1934 『北回帰線』 ヘンリー・ミラー 作者の処女作。文学史上類を見ない大胆な性の描写。60年代にアメリカで発禁処分を受けている。大学を中退後、放浪生活に入り、無数の下層職業を体験する。代表三部作は、自身の極貧生活とダンスホールで働く女性との恋愛模様と、その裏切りについて自伝的に描いている。三島由紀夫の自殺行為について、独自の見解を述べている。 アメリカ  1935★『夜明け前』島崎藤村  国民文学への挑戦 日本 1935★ 『ドグラ・マグラ』 夢野久作 精神病と狂気を主題にした奇書であり、読者の理解を目的とはしていない。メタフィクション。難解な知識。 日本 1936 『U・S・A』 ジョン・ドス・パソス  失われた世代の一人。意識の流れ。新聞記事の切り抜きや歌詞のコラージュによる節「ニューズリール」、当時の著名人の短い「伝記」、自伝体の流れの断片の節「カメラ・アイ」の、四つの流れにより構成されている。 アメリカ 1936 『風と共に去りぬ』 マーガレット・ミッチェル 南北戦争が舞台の長編作品。戦後、35年を経て生まれた著者の熱心な研究により、二転三転の恋愛ストーリーが書かれた。自身の三度の恋愛体験を作品の底本にしている。最初の読者は常に夫であったが、夫婦合作の可能性もある。映画・舞台・歌曲・ミュージカル。文学は人種差別とどう向き合うのか。 アメリカ 1936 『インスマウスの影』 ラブクラフト 怪奇小説、幻想小説。クゥトルフ神話。先駆者のポーに影響を受け、神智学や超常現象の研究を文学的幻想に変える資質がある。 アメリカ 1937 『アンセム』 アイン・ランド  全体主義への批判 ディストピア小説 ロシア生まれ アメリア 1938 『レベッカ』デュ・モーリエ  ヒッチコック監督により映画化。アカデミー賞作品賞 イギリス 1938 『嘔吐』 サルトル 実存主義 フランス  1942 『幻の女』 W.アイリッシュ  詩的表現によるサスペンス アメリカ  1942 『皇帝のかぎ煙草入れ』 ディクスン・カー  密室殺人の巧者 アメリカ 1943 『存在と無』サルトル 実存主義 フランス 1946 『ある都市の死』 ウワディスワフ・シュピルマン 第二次大戦中の体験記。映画『戦場のピアニスト』原作。ポーランド 1947 『アンネの日記』 アンネ・フランク ナチス収容所で亡くなった15歳の少女の日記。ドイツ 1947 『ペスト』 アルベール・カミュ 不条理によって襲われ、真の正義と団結による抵抗を描く。フランス 1948★『細雪』谷崎潤一郎  没落していく名家の四姉妹の生き方を綴る長編物語。日本近代文学の代表作。昭和天皇に献呈される。  日本 1948 『裸者と死者』 ノーマン・メイラー 第二次世界大戦中、アメリカ陸軍第112騎兵連隊に所属していた著者がフィリピンの戦いに参加した際の体験に基づいて描かれている。高官たちの適性のなさ、それぞれに欠陥を持ち品位も欠如した将兵たちの考えやふるまいを疑問視している。太平洋戦争後における、米首脳たちの展望なども垣間見える。国際的なベストセラーとなった。 アメリカ 1949 『1984年』 ジョージ・オーウェル  ディストピア小説 イギリス 1949 『エル・アレフ』 ホルヘ・ルイス・ボルヘス  長編作品の否定。膨大な知識による創作。無限や連環、鏡。極大と極小。著作はほとんどが日本語で二万文字程度の短編作品である。神話や歴史書、各国の宗教などへの特段の敬意が見て取れる。初期に専攻したのはイギリス文学である。 アルゼンチン 1949 『セールスマンの死』 アーサー・ミラー 劇作家。発展していく資本主義社会の歪みによって発生した、不幸な家庭の有り様を描いた。競争社会、学歴や職歴、フリーターの立ち位置、勝ち組と負け組の対比など、現代日本が抱える問題を多く孕んでいる。 アメリカ 1950 『われはロボット』 アイザック・アシモフ  ロボットSFの古典的名作 ロボット工学三原則に関する作品や、『夜が来る』などがSFの古典作とされるが、孤独に仕事に取り組む反面、企業の広告に登場したり、ファンとの交流会を楽しむなど、人間的な一面も兼ね備えていた。 ロシア生まれ、アメリカ 1950 『謎の男トマ』 モーリス・ブランショ 右翼イデオロギー作家であったが、第二次大戦中に転向する。ナチスによるユダヤ人迫害に衝撃を受けた。マラルメやカフカの影響から、『書き手の不在』による文学を確立する。 フランス
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