Storyは進化する(文学年表) 第一部

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Storyは進化する(文学年表) 第一部

 文学の歴史は、作家たちの歴史であったり、彼らの人生における偶発的事件の歴史であったり、その作品の年代順の羅列であったりしてはならず、文学の生産者もしくは消費者としての『精神』の歴史であるべきだ。 ポール・ヴァレリー 紀元前1300〜1200年頃 『ギルガメシュ叙事詩』  人間に知られている歴史の中で、最も古い作品。楔形文字で粘土板に刻まれた。メソポタミアの神話。物語の一部は、『旧約聖書』や『オデュッセイア』へと引き継がれた。 紀元前8世紀頃 『オデュッセイア』 ホメーロス(民間伝承?)  出身地不明 『イーリアス』の続編作品であり、24巻からなる。いわゆるギリシャ神話の一部である。神話体系は地域ごとに食い違いや差異があり、伝承の系譜ごとに様々なものが未だ渾然として混ざり合っている。各地の吟遊詩人が吟唱し始めてから、紙にまとめられるまでニ世紀の間があり、同一人物による作品とは考えにくい。神話の詳細や細部の説明・描写などは、後世の詩人や物語作者などの想像力が、構成していったのだと思われる。 古代ギリシャ 紀元前250年~70年 『死海文書』 著者不明  死海周辺のイエリコ南に隠れ住んでいたエッセネ派の分派集団 (クムラン宗団)により記されたとされる書物。1947年にベドウィン人の羊飼いの手により、ヨルダン川西岸地区にある、クムラン洞窟内部から発見された。972の写本群からなる。文書の大部分はヘブライ語で書かれている。イエスの原型と思しき救世主(メシア)が登場し、洗礼者ヨハネとクムラン宗団との関係も仄めかされていることから、ユダヤ教の聖典や聖書の原型(最古版)と考えられる。1991年になり、アメリカのハンティングトン図書館が、死海文書の全写真版の公開に踏み切った。 ヨルダン? 紀元前19年 『アエネーイス』 ウェルギリウス  全十二巻に及ぶラテン語における叙事詩。ホメーロスの二作から影響を受けて書かれた。ダンテの神曲に強い影響を与えている。トロイアの王子アエネーイス将軍のイタリアへの旅の様子。現地の王の娘との婚約とそれに反対する勢力との戦いを描く。 古代ローマ 1008★『源氏物語』 紫式部 恋愛、栄光と没落、政治的欲望と権力闘争などの貴族社会を描く。日本 1293 『神曲』ダンテ   ルネサンスの先駆者。三部に分かれた壮大な叙事詩。古代ギリシャ神話に範をとったエピソード(ミノタウロスなど)がいくつか見られる。ストーリー全体に著者個人の感情が強く表れている。物語に強い個性とリアリティが生まれている。登場する刑罰や怪物たちは、その全てがメタファーによって語られる。愛に関するロマンティックな思想。 イタリア 1353 『デカメロン』 ジョヴァンニ・ボッカッチョ  イタリアルネサンス期の人文主義者。散文芸術の始まり。ダンテの理解者であり、信奉者でもある。この作品は、ペストから逃れてきた10人の男女の語り話という形式をとる。複数の人間による伝承形式という、これ以前に書かれた大著と同様の形式をとっている。 イタリア 1516 『ユートピア』 トマス・モア   虚構の社会・宗教を述べた枠物語。新大陸の発見に始まる新しい社会。私有財産の否定。同じ衣服。農業と労働の義務。安楽死の推奨。戦争を否定していながら、情報工作や未然のテロにより、これを防ぐ。貨幣や交換制度を廃止することで、人々の欲望を削ぐことを目指している。見方を変えれば、ディストピアともとれる社会。 イギリス 1522 『三国志演義』 羅貫中?  後漢末期の黄巾の乱による大混乱から、魏呉蜀三国の対立による、およそ一世紀に渡る戦国の世を虚実織り交ぜて壮大なスケールで描く。単純な歴史小説ではなく、幾人かの勇士を半ば神格化して描くことで、戦闘戦術、人生の教訓、仙人や占い師による演出、君主と家臣との関係の在り方、裏切りや陰謀術中、大陸全土を大観する見地からの国政の在り方などを表現してみせた。正史を大幅に修正していることが、しばしば、議論の対象になるが、歴史というもの自体が、それを表現しうる人間の主観に歪められ、左右される可能性があることを考慮すれば、虚構を取り入れ、それを新しい物語へと進化させたことは、この作品にとって、不利な点とはならないと考えられる。著者については諸説ある。 中国 1534 『ガルガンチュワ物語』 ラブレー  ルネサンスの人文学者。オランダの作家エラスムスから強い影響を受ける。バルザックの作品の中の著述によく紹介されている。作品中でソルボンヌ大学や教会を強く批判したために、この作品は禁書目録に指定された。 フランス 1558 『エプタメロン』 マルグリット・ド・ナヴァル フランス王国王妃による執筆。デカメロンをモデルにした。フランス 1601 『ハムレット』 ウィリアム・シェイクスピア  英文学とルネサンス演劇の巨匠。四台悲劇、喜劇、ソネット集などの作品を残した。帝政ローマのプルタルコスの作品や古代ギリシャの物語を種本にしたといわれている。著者は学歴やロンドンの劇壇に登場するまでの経歴の多くが不明であり、死後に『シェイクスピア偽物説』が生まれる一因となる。撞着語法を多用した。 イギリス 1601 『魂の遍歴』 ジョン・ダン  ピタゴラスやプラトンから影響を受けて、魂はある実態から別の実態へと移っていくと考えた。T・S・エリオットやヘミングウェイなどに影響を与えた。 イギリスの詩人 1605 『ドン・キホーテ』 セルバンテス   近代小説の始祖・ロマン主義。理想主義を掲げる騎士が挫折していくさまを滑稽に描き、各国の文学者に影響を与えた。登場人物たちも自分たちの実績が書物となることを知っている、メタフィクション文学であり、現実と幻想が入り混じりながら進行する。主題である二人の冒険以外に、周囲の村人たちが、自分たちの幻想世界に二人を取り込もうとする、サブプロットが展開される。余りの好評のために、海賊版まで現れた。 スペイン 1620 『ノヴム・オルガヌム』 フランシス・ベーコン  先入観や偏見(イドラ)を排除した思考法の確立。 イギリス 1651 『リヴァイアサン』 トマス・ホッブズ  王権と生存権を両立させようとする国家機構。イギリス 1669 『パンセ』 ブレーズ・パスカル  神を信仰することの優位性を示した。その見地から、モンテーニュの死生観を否定した。人間存在の最重要性は思考にあると考え、ここに道徳の原理があると唱えた。欲望には依らない生き方、礼節を重んじる他人との付き合いを最重要と主張している。 フランス 1689?『統治二論』 ジョン・ロック   アメリカ独立宣言、フランス人権宣言に影響を与えた。 イギリス 1695 『ペロー童話集』 シャルル・ペロー 『赤ずきん』『シンデレラ』『眠れる森の美女』『長靴をはいた猫』などが収録されている。多くの昔話や民話を元にして、近代化された童話を創り上げた。サロンにて朗読発表される。『デカメロン』に影響を受けて編纂された。オペラ・演劇舞台などのテーマになった。 フランス 1704 『千夜一夜物語』 著者不明。翻訳者・編集者多数。  9世紀ごろに原型ができたと考えられ、12世紀頃までには「千一夜」という名称になっていた。欧州に初めて紹介したのは、アントワーヌ・ガラン。原作となった本はシリアで1701年に入手され、当初は282話であった。1704年以降、中東で聞き取られた話が無秩序に追加されていく。その後、幾人もの編者が現れた。男女間の大胆な性的な描写がそこかしこに含まれるため、当時のキリスト教本位の貴族社会では翻訳作業が難渋した。 不明 1719 『ロビンソン・クルーソー』 ダニエル・デフォー  英語で小説を書いた先駆者の一人。この作品は実在の人物の伝記を元にして書かれたといわれる。 フランスの思想家ルソーが読書好き青年への推薦図書の筆頭に挙げている。イギリス 1726 『ガリヴァー旅行記』 ジョナサン・スウィフト  風刺文学 アイルランド 1745頃 『天界と地獄』 エマヌエル・スヴェーデンボリ   作家としての著作のすべてはラテン語で書かれている。鉱物学、天文学、解剖学でも名を知られる。霊能力、臨死体験、宇宙人の存在などを主張した。また、知性のない者は天国に昇る資格はないとも考えていた。当時の神学や宗教論理を超越した詳細な死生観を描いた。キリスト教を崇拝した神秘論者であり、バルザック、アラン・ポー、ボルヘス、ドストエフスキーなどに影響を与えた。 スウェーデン 1749 『トム・ジョウンズ』 ヘンリー・フィールディング  風刺の効いた軽喜劇を得意としていた。劇作家と小説家の両方で成功した、数少ない人物のひとりである。「イギリス小説の父」と呼ばれる。 イギリス 1759 『トリストラム・シャンディ』 ローレンス・スターン   メタフィクション。小説ルールの破壊。アイルランド  1774 『若きウェルテルの悩み』ゲーテ   ドイツ古典主義 ドイツ 18世紀中頃 『紅楼夢』 曹雪芹(そう・せつきん)  中国四大名著。自伝的要素の強い長編小説。無限や鏡といったモチーフを含んでおり、ホルヘ・ボルヘスに影響を与えたと思われる。 中国 1780 『運命論者ジャック』 ドニ・ディドロ 啓蒙思想時代を代表する哲学者。百科全書の刊行に力を注いだ。本作は飛躍と逸脱の連続からなるメタフィクションの世界。著者の最晩年の大作である。 フランス 1782 『危険な関係』 ピエール・ショデルロ・ド・ラクロ  綿密な恋の駆け引きをテーマにした、175通の手紙で構成される書簡体小説。フランス 1797 『悪徳の栄え』 マルキ・ド・サド  道徳や宗教を放棄。暴力的なポルノグラフィー。 フランス
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